5.狂犬
「侵入者はそこにいるぞ! 撃て、撃て!」
サーバー室の自動ドアが開き、黒い防護服の特殊部隊員たちが一斉に銃口を向けてきた。
激しい銃撃が部屋を襲い、数百万ドルはするであろう精密サーバーの基盤が火花を散らして弾け飛ぶ。
だが、彼らが撃ち抜いたのはただの残像だ。
俺は最初の銃撃が始まる直前、ダイブして部屋の隅にある大型配電盤の影に滑り込んでいた。
アサルトライフルを構え、躊躇なくトリガーを引く。
パシュ、パシュ、パシュ!
サプレッサーのくぐもった音が響くたび、突入してきた兵士の頭部が正確に撃ち抜かれ、死体となって床に転がった。
わずか3秒で前衛の4人が全滅する。
「クソッ、なんて手際だ! こいつ、数ヶ月前まで廃棄寸前の死体だったはずだぞ!?」
後方の指揮官らしき男が、モニターと現実の光景を見比べながら無線に向かって絶叫している。
「体ってのは便利でね。どれだけ眠っていようが、指先が殺し方を覚えている」
俺は空になった弾倉を捨て、最後のアタッチメント――グレネードランチャーのトリガーを引いた。
銃身の下から放たれた40mm榴弾が、通路の奥で固まっていた増援のど真ん中で炸裂するーーーーーーーーー
ガラス張りのロビーの向こうには、相変わらず猛吹雪の wasteland が広がっていた。
そして、その雪原の向こうから、アークの装甲車が雪煙を上げてこちらに向かって猛スピードで突進してくるのが見えた。
Davidが直々にステアリングを握り、助手席ではEmmaが身を乗り出して車載の重機関銃を構えている。
「迎えが早いな。気が利くじゃないか」
俺はロビーの強化ガラスに向かってアサルトライフルを連射し、ヒビを入れた。
そのまま肩からガラスへと体当たりし、割れた破片とともに雪原へとダイブする。
「Jason、乗れぇ!」
滑り込んできた装甲車のサイドハッチが開き、Davidが叫ぶ。
俺は転がるようにして車内へ飛び込み、ハッチを力任せに叩き閉めた。
だが、要塞の連中もただ指をくわえて見送るほど甘くはなかった。
背後の格納庫から、雪上仕様にカスタムされた、禍々しい装甲バギーが3台、凄まじいエンジン音を轟かせて追撃に移る。
バギーのルーフに据え付けられた機関銃が、容赦なく俺たちの装甲車の背面に鉛の雨を降らせ始めた。
カンカンカンカン!
装甲板を弾丸が叩く凄まじい衝撃と金属音が車内に響き渡る。
「おい、David! この車の最高速度はどれくらいだ!?」
俺は通信インカムに怒鳴り込んだ。
「お前を乗せて雪原を爆走するには十分な速度だ!
だが、あいつらの火力を受け続けたら持たんぞ!」
「なら、お喋りはここまでだ。Emma、銃座を貸せ!」
俺は天井のハッチを押し開け、猛吹雪の吹き荒れる車外へと身を乗り出した。
顔を刺すような極寒の風。
視界を遮る雪。
しかし、追ってくる3台のバギーのヘッドライトはハッキリと見えていた。
車載の50口径重機関銃のグリップを両手で掴み、コッキングレバーを引く。
「俺の眠りを妨げた分のツケを払ってもらうぞ」
トリガーを力一杯に絞り込んだ。
ドガガガガガガガガガ!!
重機関銃の重低音が雪原に響き渡り、巨大なマズルフラッシュが闇を照らす。
放たれた大口径の弾丸は、先頭を走っていたバギーのフロントガラスを防弾ごと粉砕し、エンジンブロックを一瞬で鉄屑に変えた。
制御を失った1台目が激しく横転し、激しい炎を上げて雪原を転がっていく。
残るは2台。
奴らは左右に散り、こちらの死角から挟み撃ちを狙ってくる。
「David、右に急ハンドルだ! 奴を壁に押し付けろ!」
「了解!」
Davidがステアリングを激しく切ると、数トンの装甲車がドリフトしながら右側のバギーへと牙を剥いた。
ガガガガギギギギ!
と激しい火花を散らしながら、相手のバギーを通り沿いのビルのコンクリート壁へと押し潰す。
バギーはひとたまりもなく圧壊し、爆発炎上した。
最後の一台が、俺の死角である左後方から迫り、ロケットランチャーを構えるのが見えた。
「遅い」
俺はアサルトライフルに持ち替え、銃身の下のグレネードランチャーのトリガーを引いた。
放たれた40mm榴弾は、バギーの助手席でランチャーを構えていた兵士の胸に直撃し、発射される前の一発もろとも大爆発を起こした。
最後の一台が木っ端微塵になり、雪原に静寂が戻る。
直後、遥か後方で、俺が仕掛けた爆薬と動力炉の暴走によって、通信施設が巨大な炎のキノコ雲を上げて消し飛んだ。
核の冬の夜空が、一瞬だけ真紅に染まる。
ハッチを閉め、車内へと戻った俺はガスマスクを脱ぎ捨て、荒い息を吐いた。
Emmaが息を呑みながら、タオルを差し出してくる。
「……何か分かったの、Jason?」
俺はポケットから、サーバーから奪取したデータデバイスを取り出し、ニヤリと笑ってみせた。
「ああ。俺の過去と、この世界の終わらせ方についてな。
……Lukeにこれを解析させろ。
次は、俺たちが攻勢に出る番だ」
遠ざかる要塞の炎を見つめながら、俺は次の戦いに向けて、静かに牙を研ぎ始めていた。




