【Day 4】午前6:00:暗黒(ブラックアウト)と「二人分」の朝食
4日目の朝は、突如として訪れた「静寂」によって始まった。
アレンは、耳に馴染んでいたガレージの換気扇のブーンという低音が一瞬で消え去ったことで目を覚ました。跳ね起き、裸眼のままぼやける視界をこすりながらモニターを見やる。メインのディスプレイの半分以上が、シグナルを失って虚無の黒へと暗転していた。
「……変電所が完全に吹き飛んだか」
アレンは苦々しく呟いた。Day 2に仕込んだ自律パッチのおかげで、彼の家とごく一部のブロックだけは自家発電によって電力が維持されている。しかし、街の公衆防犯カメラの9割は息絶え、アレンは『街の目と耳』を失ってしまった。
「うーん……。朝からずいぶん暗い顔してんね、天才ハッカーさん」
ガレージの隅の段ボールから、サラが伸びをしながら起き上がってきた。ライダースジャケットを羽織り、金髪のポニーテールをきゅっと結び直す彼女の姿は、この絶望的な状況にあっても不気味なほど生気に満ちていた。
アレンは何も言わず、バックパックから保存食の入った箱を取り出した。いつもなら計算通り「自分の一食分」だけを冷徹に口に運ぶところだった。しかし、彼の指は無意識のうちに、もう一本のカロリーメイトと、一本のミネラルウォーターをサラの方へと差し出していた。
「……あげる。君の分のカロリー(リソース)だ」
サラは一瞬、驚いたように目を丸くしたが、すぐに嬉しそうにそれを受け取った。
「へえ! 他人にリソースを割くのは『ただのバカ』じゃなかったっけ? ありがと、アレン。あんた、思ったより悪党になりきれないタイプだろ」
「勘違いしないでくれ。君に餓死されたら、死体の処理という無駄なタスクが増えるから合理的に判断しただけだ」
アレンはふいと目をそらし、前髪をかき上げた。自分の内面で起きている奇妙な「バグ(他者への配慮)」を、論理的な言葉で必死に隠そうとしていた。




