【Day 3】午後11:00:冷徹の揺らぎ
【Day 3】午後11:00:冷徹の揺らぎ
夜、アレンは結局、サラを撒くことができずに
拠点のガレージへと連れ帰る羽目になっていた。
外の通りをゾンビの群れが徘徊し始めており
一人で追い出すことは物理的に不可能だったからだ。
ガレージのトリプルモニターを見て
サラは「うわ、何これ、オタクの秘密基地?」
と声を弾ませた。
アレンは冷たい態度を崩さず
画面に向かってキーボードを叩き続けた。
「静かにしてくれ。街の防犯カメラの維持と
明日の移動ルートの計算で忙しい。
君の寝床はあっちの段ボールの上だ。
明日の朝になったら、すぐに出ていってもらう」
サラは肩をすくめ、手際よく
自分のパイプレンチを布で磨き始めた。
「へいへい、冷たいねぇ。でもさ、ありがとよ。
外はもう、本当に地獄だから……。
あんたみたいな偏屈でも
生きてる人間の声が聞こえる場所にいられるのは、悪くない」
サラはそう言うと、少し寂しそうに微笑み、床に丸くなった。
アレンはキーボードを叩く指を、ほんの一瞬だけ止めた。
いつもなら、他人の感情など「ノイズ」として
処理するはずだった。
だが、モニターの反射光の中に映るサラの寝顔を見て
彼の胸の奥で、数理モデルには存在しない奇妙な感覚が
小さく芽生えていた。
その夜、アレンはまたあの悪夢を見た。
赤く染まる地下基地。鳴り響く警報。
しかし、いつもと違っていたのは
暗闇から伸びてくる無数の死体の腕から
アレンの手を必死に引っ張り上げようとする
「もう一人の手」があったことだ。
アレンは汗だくで目を覚ました。
裸眼の視界の先、ガレージの片隅で
サラは静かに寝息を立てている。
世界が崩壊するまで、あと4日。
アレンの冷徹な世界に、最初の「バグ(絆)」が
混入した日だった。




