1.覚醒(後半)
ガスマスクのフィルターが、俺の荒い呼吸を吸い込んでシューシューと不気味な音を立てる。
視界の端がゴムのフレームで狭まっていたが、標的を捉えるには十分だった。
「Jason、正面のハッチが破られるぞ! 3、2、1……!」
Davidの怒号と同時に、分厚い鉄製のハッチが爆風で吹き飛んだ。
立ち込める白煙の向こうから、スパイク付きの防護服に身を包んだ山賊どもが、狂ったような歓声をあげて雪崩れ込んでくる。
「パーティーの始まりだ」
俺は遮蔽物のコンクリート壁から身を乗り出し、手にした散弾銃を腰だめで構えた。
ドンッ!という重低音とともに、先頭の男の胸に鉛の散弾が炸裂する。
男は防護服ごと弾け飛び、後ろの奴らを巻き込んで転がった。
「Emma、左の通路へ回り込め! David、右を抑えろ!」
指示を飛ばしながら、俺は流れるような動作でショットガンをリロードする。
カチャ、カチャ。
ショットシェルが薬室に収まる小気味いい音が、脳の芯を痺れさせた。
その時、頭上のスピーカーからLukeの悲鳴混じりの通信が入った。
『Jason! 聞こえるか! 銃撃戦の衝撃で第3セクターの空気ろ過装置が完全にイカれた!
早くメインコンソールを手動で再起動しないと、シェルター内が汚染物質で満たされるぞ!』
「チッ、人使いの荒いシェルターだ」
俺は襲いかかってきた二人目の山賊の銃口を左手で撥ね退け、そのまま銃床で奴の顎を粉砕した。
崩れ落ちる体を踏み台にして、一気に換気システムがある制御室へと突き進む。
制御室のドアを開けると、そこはすでに地上の汚染された冷気が混じり合い、白く凍りついていた。
ガスマスクのインジケーターが赤く点滅し始める。
フィルターの寿命が削られている証拠だ。
「おい、科学者。どこのレバーを引けばいい?」
『あ、ああ!
奥にある巨大なジェネレーターの、右側にある赤い三本のレバーだ!
順番に引かないと過負荷で爆発する!』
俺は凍りついた床を滑るように進み、レバーの前に立った。
1本目、硬い。渾身の力で引き下ろす。
2本目、火花が散る。
そして3本目――。
その時、背後でカチャリと不穏な金属音が響いた。
「そこまでだ、タフガイ」
振り返ると、防護服の上に毛皮をまとった、山賊のリーダーらしき大男がサブマシンガンを俺に向けていた。
マスクの奥の目が、獲物を追い詰めたハイエナのように濁っている。
俺はゆっくりと両手を挙げ、ニヤリと笑ってみせた。
マスク越しでも、俺の仕草は伝わったはずだ。
「おい、お前。ガスマスクのフィルターは新品か?」
「あ? 何を言って――」
「俺のはもう寿命でね。少し急いでるんだ」
言葉が終わるより早く、俺は腰に忍ばせていた(さっきぶちのめした山賊から拝借した)コンバットナイフを、アンダースローで一直線に投げつけた。
ナイフは男のサブマシンガンの銃身を弾き飛ばし、そのまま男の喉元へ深く突き刺さる。
男がうめき声をあげて倒れると同時に、俺は最後のレバーを力任せに引き下ろした。
ゴオオオオオ……!
重低音とともに換気ファンが再び唸りを上げ、シェルター内の空気が一気に吸い出されていく。
クリアな視界が戻り、ガスマスクの警告音が消えた。
「Emma、David。こちらは片付いた。そっちはどうだ?」
無線を繋ぐと、Emmaの少し息の切れた声が返ってきた。
『こっちも全滅させたわ、Jason。
本当に化け物ね、あなた。
……でも、のんびりしてる暇はなさそうよ。
Lukeが地上のキャッチした無線に、妙な音声信号が混じってるって大騒ぎしてる』
俺は倒れた山賊のリーダーの胸からナイフを引き抜き、防護服の布で血を拭った。
「妙な信号だと?」
『ええ。私たちの過去……そして、この『アーク』を作った連中に関する手がかりかもしれないわ』
俺はガスマスクを外し、冷たい地下の空気を深く吸い込んだ。
記憶はまだ霧の彼方だが、どうやら退屈する暇だけはなさそうだ。




