第86話
颯太と姫希は、街の中を歩いていた。
駅前から少し離れると、祭りへ向かう人の流れが見えてくる。
小さな街なのに、思っていた以上に人が多い。
颯太は周囲を眺めながら歩いていた。
「この街って小さい街なのに、昔から活気が良いって有名なんだよね。」
「そうなんだ。全然知らなかった。」
姫希は少し意外そうに街を見回した。
通りには祭りの準備をしている店もあり、あちこちから人の声が聞こえてくる。
そんな中、颯太が少し先へ視線を向けた。
「あれ見て。」
「ん?」
颯太が指差した先。
ひときわ人が集まっている建物があった。
「あそこ、安西アクセサリーの工房。」
「今日の目的地。」
「え?」
姫希が足を止める。
「あれが?」
「そう。」
姫希は工房を見つめた。
店の前には人だかりができている。
中へ入っていく人もいれば、店先で商品を眺めている人もいる。
「人集り凄いね。」
「an-Zは有名ブランドだからね。」
「そっか。」
姫希は改めて店を眺める。
そして、自分の指へ視線を落とした。
そこには、いつも大事につけている指輪がある。
「私は有名になる前にこれ買ったから。」
少し得意そうに胸を張る。
「見る目があったってことだね。」
「自分で言う?」
颯太が笑う。
「だって本当じゃん。」
姫希も笑いながら、指輪を眺めた。
その時だった。
「あっ、その指輪。」
後ろから女性の声がした。
姫希は反射的に振り向く。
「あ、ども。」
いつものように軽く頭を下げる。
だが、顔を上げた瞬間。
姫希の表情が止まった。
「……あ。」
女性も姫希の顔を見ている。
「え?」
姫希の目が大きくなる。
「嘘?」
一歩、女性へ近づく。
「ひまりさん!!」
思わず声が大きくなった。
颯太も驚いて女性を見る。
「いきなり会えた。」
ひまりは姫希の声に驚きながらも、指輪へ視線を落とした。
そして、懐かしそうに笑う。
「懐かしい。」
「私の初期作。」
姫希は思わず指輪を見る。
ひまりは改めて姫希の顔を見た。
そして、何かに気づいたように目を見開く。
「ん?」
「あれ?」
姫希を見る。
「もしかして……JJの姫希さん?」
「え?」
今度は隣にいる颯太を見る。
「あれ?」
「隣は……颯太Zさん。」
「え?」
姫希も颯太を見る。
ひまりは二人を交互に見た。
「嘘!」
「マジ?」
さっきまでの落ち着いた表情が一気に崩れる。
「ヤバい。」
「ちょっと待って。」
ひまりは周囲を見回した。
工房の前には、まだ人がいる。
二人に気づいている人間がいないか確認する。
「すぐ応接室用意するね。」
「ここでファンに囲まれたら大変。」
「こっち。」
ひまりは二人を急いで店内へ案内した。
姫希は歩きながら颯太を見る。
「なんか凄いことになってきたね。」
「まだ目的地に着いただけだけどな。」
「それが凄いんじゃん。」
二人は笑いながら、ひまりの後について工房の奥へ入っていった。




