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SEED  作者: 泣きピエロToY
第十二章「天体観測」
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第87話


応接室に通された二人。


店の外から聞こえていた人の声も、ここまで来ると少し遠く感じる。


ひまりは向かいのソファに座り、二人を見ながら笑った。


「今日は、お祭りに来たの?」


「変装もしないで?」


姫希は自分の格好を見てから、ひまりを見る。


「隠すこと何もないので。」


「颯太がこのお店のこと調べて連れてきてくれたんです。」


「へぇ。」


ひまりは颯太を見る。


颯太は少し照れくさそうに答えた。


「姫ちゃんがずっと大事にしてた指輪が、ここのものだと教えてもらったので。」


「誰に?」


「誰に?」


姫希とひまりの声が重なった。


颯太が二人を見る。


「S社斉藤さん。」


ひまりの表情が変わった。


「あいつか。」


「知ってるんですか?」


姫希が少し身を乗り出す。


「知ってる。」


ひまりは少し考えるように視線を上げた。


「私の同級生にフリーのカメラマンになったやついるんだけど。」


「それの仕事仲間だよ。」


「そうなんですか。」


姫希は意外そうに頷く。


ひまりはそんな姫希を見て、ふっと笑った。


「それより。」


視線が姫希の指へ向く。


「指輪見せてもらえる?」


「あ、はい。」


姫希は指輪を外す。


そのまま両手でひまりへ差し出す。


「どうぞ。」


ひまりは受け取った。


指輪を表から眺め、裏返す。


角度を変えながら、細かなところまでじっくり見る。


姫希も黙ってその様子を見ていた。


やがて、ひまりが小さく頷く。


「うん。」


「大事にしてもらってるのがわかる。」


姫希の顔が少し緩む。


「ありがとうございます。」


ひまりは指輪から目を離さない。


「私がまだ修行中だった頃に作ったもので間違いない。」


「かわいいものが作りたかったんだけど、ちょっとゴツくなっちゃって。」


「失敗かと思ったんだけど、妙に愛着があって。」


「だから覚えてたんですか?」


「うん。」


ひまりは笑う。


「初期の頃って、今よりずっと不器用だったから。」


「これを見ると、その頃のこと思い出す。」


姫希へ指輪を返す。


姫希は受け取ると、すぐに自分の指へ戻した。


いつもの位置。


いつもの指輪。


それを確認するように、指を少し動かす。


「この指輪つけていると、力が湧いてくるんです。」


ひまりが顔を上げる。


「なんでかはわからないですが。」


姫希は自分の指を見つめる。


「だから私が私であるために必要なものなんです。」


ひまりは何も言わず、姫希を見ていた。


そして、柔らかく笑った。


「そっか。」


「凄い嬉しい。」


姫希も笑う。


「作った人に直接言えて良かったです。」


「私も。」


ひまりは自分の手元を見る。


「作った時は、まさか何年も経って、こんなふうに大事にしてくれる人に会えるなんて思ってなかったから。」


「今日、ここに来たのも偶然みたいなものですしね。」


「そうだね。」


二人が笑う。


その時、ひまりが何かを思い出したように顔を上げた。


「あっ、そういえば。」


「お二人は婚約されているんですよね?」


「そんな感じです。」


姫希が答える。


ひまりは二人を交互に見る。


「何かプレゼントさせてもらえないかな?」


「え?」


姫希が慌てる。


「そんな。悪いです。」


「つけてもらえるだけで宣伝になるし。」


ひまりは軽く笑った。


「ダメかな?」


「買わせていただきたいです。」


颯太が口を挟む。


「ダメ。」


即答だった。


「プレゼントしたいです。」


「いや、でも……」


「ダメ。」


ひまりは笑っている。


けれど、どうやら本気で譲るつもりはない。


そこへスタッフが苦笑しながら口を挟んだ。


「ひまりさんはこうなったら頑固ですよ。」


「他の仕事に影響出る前に、受け取っていただけると助かります。」


「そんなに?」


姫希が笑う。


スタッフも苦笑する。


「はい。」


姫希はひまりを見る。


少し考えてから、笑顔になった。


「じゃあ、毎日付けます。」


「取材の時も、ライブの時も。」


そして、まっすぐひまりを見る。


「必ず有名になります。」


「ありがとうございます。」


颯太も頭を下げる。


「ありがとうございます。」


ひまりは二人を見て、嬉しそうに笑った。


「うん。」


「あの子たちも喜んでる。」


そう言って、ひまりは工房の奥へ向かった。


しばらくして戻ってきた。


その手には、二つのブレスレット。


ひまりは二人の前にそれを並べた。


「これ。」


姫希が目を丸くする。


「え?」


「今日の記念。」


「二人でつけて。」


一対になったブレスレット。


姫希は一つを手に取る。


颯太ももう一つを手に取った。


「……お揃い?」


「うん。」


姫希が颯太を見る。


颯太も自分の手元を見る。


姫希は少し嬉しそうに笑う。


「なんか、こういうの初めてだね。」


「そうだね。」


それぞれ手首につける。


姫希は自分のブレスレットを眺めたあと、颯太の手首へ視線を移す。


同じもの。


少しだけ不思議な感じがする。


「似合ってる?」


「似合ってる。」


「颯太も。」


「ありがと。」


ひまりはそんな二人を見ながら笑っていた。


「良かった。」


「大切にしてね。」


「はい。」


姫希が頷く。


「ありがとうございます。」


颯太も頭を下げた。


「ありがとうございます。」


二人はひまりに見送られながら、工房を後にした。


外へ出ると、祭りの賑やかな声がまた聞こえてくる。


姫希は歩きながら、何度も自分の手首を見る。


その隣で、颯太も同じようにブレスレットを見ていた。


「なんか凄いことになったね。」


颯太が言う。


「うん。」


姫希は自分の指を見る。


そこには、ずっと大切にしてきた指輪。


そして手首には、今日もらったブレスレット。


隣には、それと同じものをつけた颯太。


「想像以上に楽しい一日だったぜ、颯太!」


「俺も。」


二人は自然に手を繋いだ。


姫希の指輪と、二人の手首のブレスレット。


繋いだ手の上で、それぞれのアクセサリーが並ぶ。


姫希はそれを見て、少しだけ笑った。


二人はそのまま駅へ向かって歩いていく。


しばらくして。


「りんご飴だけ買って良い?」


颯太はすぐに答えた。


「そういうと思った。」


「ちょっと先にお店あったよ。」


「リサーチ済み。」


姫希の顔がぱっと明るくなる。


「さすがだね、颯太。」


二人は手を繋いだまま、祭りの中へ戻っていった。

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