第8話 実際見てみないと分からないこと多いからな
ライブハウスへ行く日。
休日の昼、二人は駅で待ち合わせた。
奏
「客多い箱だから、できる限り手ぶらで来い」
颯太
「了解」
奏
「噂では今日のライブに女性ボーカル出るらしい。評判は良い」
颯太
「おぅ、良いね。楽しみだ」
奏
「実際見てみないと分からないこと多いからな」
颯太
「良かったら引き抜くの?」
奏は首を横に振る。
奏
「いや、まずは候補として選ぶ。いきなり決めない方が無難だろ」
二人は駅を出て、ライブハウスへ向かった。
地下へ続く階段を降りていく。
そこがライブハウスの入口だった。
颯太
「なんか、普通だね。もっとキラキラしてるかと思った」
奏
「それじゃ近所迷惑だろ。行くぞ」
受付のスタッフが二人を見る。
「高校生二枚ですね」
奏が料金を支払う。
「ワンドリンク制です」
ドリンクコインを受け取り、中へ入る。
すでに一組目のライブが始まっていた。
爆音が腹の底まで響く。
颯太
「すげっ、腹に響く」
奏
「この男ボーカルはパワー系だな。叫びすぎて何言ってるか分からない」
少しステージを見つめて続ける。
奏
「確か二つ年上」
颯太
「調べたの?」
奏
「当然。出演者くらい事前に調べる」
ステージから目を離さずに言う。
奏
「好き勝手やられたら嫌だろ。部活みたいな空気感も嫌だし」
颯太は演奏を見つめる。
颯太
「でも、あのベースとドラムは上手いね。安定してる」
少し考えて首を傾げた。
颯太
「でも、なんかアンバランスなバンドだね」
奏は少し笑う。
奏
「お前、よく見てるな」
ベースへ視線を向ける。
奏
「多分、あのベースとドラムは助っ人だ」
颯太
「分かるの?」
奏
「リズムは完璧だけど、ボーカルを全然見てない。合わせてるだけだ」
颯太
「なるほ」
奏
「変な略し方すんな」
一組目が終わる。
客席ではドリンクを取りに行く人や、知り合いと話し始める人の姿があった。
颯太
「なんか、みんな冷めてるね」
奏
「こんなもんだろ」
客席を見回しながら続ける。
奏
「箱を満杯にできるバンドなんて、そうそういない」
奏
「ファンだって前列にいる数人くらいだろ」
颯太
「そっか」
ステージでは次のバンドの転換が始まる。
奏はフライヤーに目を落とした。
奏
「次はコピーバンドだ」
颯太
「へぇ」
奏
「流行りの曲ばっかやってる五人組。男ボーカル、ギター、ベース、キーボード、ドラム」
一拍置いて口元を緩める。
奏
「キーボードは、うちの学校の軽音部だぞ」
颯太
「目、合わすなよ」
奏
「大丈夫。ここなら気付かれねぇよ」




