第74話 奏が帰ってきた
奏の加入テストは、開始からわずか五分で終わりを告げた。
アンプのかすかなノイズだけがスタジオに響く。
奏とエクスプローラの存在感が際立っていた。
達磨は小さく唾を飲み込み、腕を組む。
「問題ねぇな。前よりスゲェくらいだ。」
「そうだな。新曲ぶら下げて帰ってきやがって。」
大地は小さく笑った。
「良い曲だよね。『Soul change』。」
姫希は奏を見た。
奏は静かに答える。
「まだまだ改良の余地はあるけどな。」
颯太が口を開く。
「奏が帰ってきたし、リーダーはまた奏で良いよね?」
奏は首を横に振った。
「いや、悪い。俺は自分のことで精一杯だ。だから出来ない。」
これからは左手のメンテにも時間を使いたい。
リーダーまでやる余裕はなかった。
「そっか。じゃあ大地さん、お願いね。」
大地が目を丸くする。
「は? 颯太がやらないのか? 設立メンバーだろ。」
「颯太じゃ不安。」
達磨が即答した。
「右に同じ。」
姫希も頷く。
「天然すぎて怖い。」
奏が言うと、スタジオに笑いが広がった。
「みんなひどいな。」
颯太は苦笑した。
奏が帰ってきた。
それだけで十分だった。
これからはまた、奏と並んでギターを弾ける。
その時間を何よりも大切にしたかった。
「いつも困っている時助けてくれたのは大地さんでしょ?」
颯太は大地を見る。
「お願いしたい。ダメかな。」
大地は一つ息を吐く。
「わかった。引き受けるよ。その代わり、ライブ以外も予定ガンガン入れるからな。」
「それから姫。JJのホームページ作って、姫ちゃんねるにリンクしよう。管理たのむ。炎上させんなよ。」
「了解。」
姫希は笑顔で親指を立てた。
颯太が思い出したように口を開く。
「まだ公開されてない情報なんだけど、『魂の共鳴』って漫画知ってる? アニメ化するらしいよ。タイアップのオーディションやるって聞いた。『Soul change』、テーマに合うんじゃないかなって思ったから。」
「どこ情報? 私知らなかった。」
姫希が目を丸くする。
「まじかよ。全巻読んだわ。」
達磨が身を乗り出した。
「焼肉屋二階の部屋に全部揃ってるぞ。」
大地が答える。
奏は四人を見渡した。
「その情報が本当かどうかは置いといて、まず『Soul change』を完成させよう。」
颯太はもうギターを弾きはじめていた。




