第73話 魂の交換
朝早く、颯太と姫希はミホの家へ向かった。
庭へ入ると、すでに奏はギターを肩へ掛けて待っていた。
構えていたのは、レフティのエクスプローラ。
昨日までケースの中で眠っていたギター。
今はまるで、ずっと奏の相棒だったかのように自然に肩へ収まっていた。
奏と颯太の目が合う。
言葉はいらなかった。
颯太も静かにギターケースを開き、レスポールを肩へ掛ける。
二人は何も言わず、それぞれの定位置へ立った。
少し離れた場所では、ミホと姫希が静かに二人を見守っている。
奏は深く息を吸った。
そして、何も言わず新しいメロディーを弾き始める。
昨日まで止まっていたはずの音が、迷いなく溢れていく。
最後の一音を響かせると、奏は颯太を一度だけ見た。
そして、ミホと姫希へ視線を移す。
「新曲だ。」
「聞いてくれ。」
「Soul change!!」
次の瞬間。
奏のギターが走り出す。
ほとんど間を置かず、颯太も音を重ねた。
初めて合わせる曲のはずなのに、不思議なくらい噛み合っていく。
奏が一音変えれば、颯太も応える。
颯太がリズムを崩せば、奏が新しい道を作る。
視線が合う。
小さく頷く。
また音が変わる。
二人はその場で曲を書き換えていく。
演奏が終わる頃には、最初に奏が弾いた『Soul change』とは、もう別の曲になり始めていた。
颯太は笑う。
「もう一回良い?」
奏も笑って頷いた。
「あぁ、もちろん。」
再び音が重なる。
一回。
二回。
三回。
演奏を重ねるたびに、新しいフレーズが生まれていく。
どちらが作ったのか分からない。
二人で作っている。
そんな曲だった。
何度目かの演奏が終わる。
姫希は両手を握りしめながら声を上げた。
「あー。歌いたい。」
「良いところなのに。」
少しだけ時計を見る。
「もう、時間がない。」
「帰る時間だよ。」
奏と颯太は顔を見合わせる。
どちらからともなく拳を突き出した。
コツン。
小さな音が鳴る。
奏は笑う。
「今のセッション作ったらメールするから。」
颯太も笑い返した。
「りょーかい。」
「じゃ、次はテストで会おう。」
奏は力強く頷く。
「あぁ。」
それだけだった。
それだけで十分だった。
帰りの新幹線。
窓の外には、朝の景色が流れていく。
姫希は景色を眺めながら、小さく笑った。
「楽しかったね。」
「私たち、何の進展も無かったけど。」
隣を見る。
颯太は安心したような顔で眠っていた。
昨夜。
奏から電話が掛かってきてからの颯太は、まるで子どものようだった。
「あの声聞いた?」
「絶対戻ったよ。」
「早く聴きたい。」
いつもよりずっとよく喋り、なかなか眠ろうとしなかった。
姫希は眠る横顔を見つめ、少しだけ頬を膨らませる。
「奏の、あんな声聞いたら寝れないよね。」
「ちょっとヤキモチだな。」
そう呟くと、眠っている颯太の頬へそっと口づけた。
「えへへ。」
「私だけの秘密だ。」
窓の外へ視線を戻す。
自然と笑みがこぼれる。
「旅行楽しかった。」
新曲『Soul change』
魂の交換。
俺はお前。
お前は俺。
互いの音を受け止め、互いの音で前へ進む。
二人揃ってこそのツインギター。
ようやく二人の思いは、一つになった。
足並みは、もう揃っている。
あとは奏の加入テストを待つだけ。
それが終われば、JJは再び動き出す。
もう一度。
五人が、あのステージへ帰ってくる。
第十章 「光の中へ」 完




