↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SEED  作者: 泣きピエロToY
第十章「光の中へ」
PR
71/87

第71話 受け取る資格


ミホは立ち上がり、軽く伸びをした。


「一回休憩? なら紅茶淹れてくるね。」


姫希もすぐに腰を上げる。


「私も手伝う。」


二人は並んでキッチンへ向かった。

庭には奏と颯太だけが残る。

さっきまで張りつめていた空気が、少しだけ和らいでいた。


奏は苦笑いを浮かべながら颯太を見る。


「颯太、悪かった。」


「俺が暴走したらダメだよな。」


颯太は小さく首を振る。


「まだ時間はあるんだ。」


「もっと楽しんでやろうよ。昔みたいにさ。」


その一言に、奏の肩から少しだけ力が抜けた。


「ふっ、そうだな。」


少し間を置き、思い出したように口を開く。


「そういえば、お前ら婚約したんだよな?」


「会見見たぞ。」


颯太は照れくさそうに笑う。


「うん。毎日が最高に刺激的。」


「振り回されることも多いけど、楽しいよ。」


奏は少し笑う。


「式はいつ?」


颯太は困ったように頭をかく。


「それは……。」


その声を聞きつけた姫希が、キッチンから顔を覗かせた。


「勝手に話進めないで。」


「私もまぜろ。」


後ろからミホも笑う。


「私も聞きたい。」


姫希は紅茶を手に庭へ戻りながら胸を張る。


「結婚はまだまだ先。もっと恋人らしい事いっぱいしてからだよ。」


「まだ、二回しかデートしてないし。」


「今回初泊まりデートなんだから。」


「周りが焦るな!」


ミホは楽しそうに尋ねた。


「親の顔合わせとかしたの?」


姫希は思い出して吹き出す。


「会見から帰ったらウチの親が颯太の家にいた。」


颯太は目を丸くする。


「あれが顔合わせか!」


姫希は肩をすくめた。


「父さんが、『娘が口悪くてすいません』って謝ってた。」


奏は思わず笑う。


「あの会見は酷かったもんな。」


ミホも笑いながら頷いた。


「ツンデレ全開だった。」


四人の笑い声が庭に広がる。

場が和んでいた。

姫希は笑いながら続けた。


「婚約はしたけど、ただの口約束だよ。」


颯太は慌てて声を上げる。


「そんな事ないよ!!」


姫希は笑って首を振る。


「そうじゃなくて、今は恋人としての時間を大事にしてるって事。」


「いきなり婚約者ですじゃ、なんか重いじゃん。」


ミホは優しく頷く。


「そうだね。」


「デートして、キスして、色々して。」


「それからなんだもんね?」


「どこまで行ったの??」


姫希は少し照れながら答えた。


「手繋いだ。」


奏は呆れたように笑う。


「まだそこかよ。」


「先が思いやられるな。」


颯太は顔を真っ赤にしながら言い返した。


「そっちはどうなんだよ。」


奏は平然と答える。


「順調だ。」


ミホはすぐに笑って否定する。


「うそうそ。完全にギター漬け。」


「そっちとあんまり変わらない。」


再び笑いが起こる。

穏やかな空気が流れる中、颯太の表情が静かに変わった。


「奏、今の演奏はほぼ完璧だと思う。」


「でも納得してないんだよね?」


奏は真っ直ぐ頷く。


「あぁ、そうだな。」


颯太は静かに問いかける。


「何が足りないと思ってる?」


奏は少し考え、ゆっくり答えた。


「それは、あの言葉に出来ない感覚かな。」


その答えを聞いた颯太は、小さく笑う。


「なんだ、わかってたんだ。」


「安心した。」


足元に置いていたギターケースへ手を伸ばす。


「だから今日、今の奏に必要かなって思ったもの持ってきた。」


そっと奏の前へ置く。


「開けてみて。」


奏はゆっくりと留め具を外した。

蓋が開く。

その中に収まっていたレフティのエクスプローラを見た瞬間、奏の動きが止まる。


「おまっ、これは……。」


そのギターが何を意味するのか。

奏にはすぐに分かった。


颯太は静かに言う。


「受け取って。」


奏はしばらく黙ったままエクスプローラを見つめる。

やがて、小さく首を横へ振った。


「ダメだ。」


「今はまだ受け取る資格がない。」


「受け取れない。」


視線を落としたまま続ける。


「しかも、オーダーメイドだろこれ。」


「こんなもん用意しやがって……。」


颯太は穏やかに答えた。


「弾いてあげてよ。」


奏は苦しそうに笑う。


「無理だ。」


「持ち帰ってくれ。」


ゆっくりと立ち上がる。


「今日は家に帰る。」


そう言い残し、庭を後にした。

姫希は立ち上がる。


「なんだあの態度。一発殴ってくる。」


「どんな思いで颯太がここに来たか。」


「わかってない。」


ミホはそっと姫希の腕を掴んだ。


「違うよ、姫希。」


「わかってるから受け取れないんだよ。」


庭を後にする奏の背中を見つめ、小さく笑う。


「奏くんは不器用だな。」


「ふふっ。」


颯太はギターケースを静かに閉じた。


「もしよかったらだけど、このギター預かってもらえる?」


ミホは優しく頷く。


「うん。」


「必ず渡します。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。