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SEED  作者: 泣きピエロToY
第十章「光の中へ」
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第70話 何かが足りない


奏は家の庭で一心不乱にギターを弾いていた。


「もう一回。」


「まだまだだ。」


演奏が終わるたびにそう呟き、すぐにギターを構える。

ピックを持つ手を一度だけ見つめる。

指先を軽く動かし、感覚を確かめるように握り直す。

そして何も言わず、またギターを鳴らした。


その隣では、ミホも奏に合わせてギターを弾き続けていた。

奏が同じフレーズを繰り返せば、ミホも何度でも合わせる。


テンポを少し落とす日もあれば、ライブを意識した速さで弾く日もある。

今日も奏の感覚を取り戻すため、いつものように隣で音を重ね続けていた。


何か月も続いている、二人の日課だった。

演奏が終わると、ミホはそっとギターを下ろす。


「一回休憩したら?」


「追い込みすぎも良くないよ。」


奏は首を横に振る。

その反応を見ても、ミホはそれ以上止めようとはしなかった。


止めても奏は弾く。

それを誰より知っているからだ。


そんな二人の元に一台のタクシーが止まる。

演奏の音が途切れた庭に、ドアが開く音が響いた。


先に飛び出してきた姫希が、大きく手を振る。


「やっほー、元気してる?」


その後ろから、ギターケースを肩に掛けた颯太がゆっくりと降りてくる。


「久しぶり。」


奏は思わず眉をひそめた。


「んなっ、何で?」


まだ納得のいく演奏ができていない。

そんな自分を。

今一番見られたくない相手だった。


ミホは驚く様子もなく微笑む。


「いらっしゃい。時間通りだね。」


姫希も笑顔で頷いた。


「うん。」


奏はミホへ視線を向ける。


「ミホ、どういう事だ?」


「姫希が遊びにきたいって言ってたからOKしただけだよ。」


奏は小さく息を吐き、颯太へ向き直る。


「調子どう?」


奏はギターを握り直した。


「まだまだだ。でも加入テストまでには間に合わせるよ。」


奏の強さが、そう言わせた。

颯太はその言葉を否定しない。


「うん。」


「せっかくだから久しぶりに一緒にギター弾かない?」


奏は一瞬だけ颯太を見つめる。

その誘いを断る理由はなかった。


「あぁ、そうだな。」


颯太はギターを構えた。


「何弾く?」


奏は迷わず答える。


「spicy girlを合わせる。」


「りょーかい」


二人は向かい合い、静かにギターを構えた。

目を合わせる。

それだけで呼吸が合う。


次の瞬間、二本のギターが同時に鳴り響いた。

息はぴたりと合っていた。

リズムも、フレーズも乱れない。

ツインギターとしての完成度は、怪我をする前より高いかもしれない。


それでも奏は演奏を止めると、小さく首を横へ振った。


姫希は思わず目を丸くする。


「凄いね、元の奏のレベル超えてるんじゃない?」


ミホは二人を見つめたまま静かに答えた。


「平然と弾いてるけど、まだかなり無理してるんだよ。颯太くんの前だからね。」


姫希は首を傾げる。


「でも、なんか違うなー。」


ミホは小さく頷いた。


「本人も納得できてないんだよ。」


演奏を見つめたまま、静かに続ける。


「私も何か月も一緒に弾いてきたけど、まだ答えが見つからない。」


少しだけ笑う。


「今日が良い刺激になってくれたら良いな。」


二人は静かに話しながら、ギターを弾く二人を見守っていた。


一曲弾き終える。

奏はすぐに口を開いた。


「もう一回。」


颯太は短く頷く。


「うん。」


再びギターを構える。

同じ曲。

同じフレーズ。

何一つ手を抜かず、もう一度音を重ねた。


演奏が終わる。

奏はゆっくりと首を横へ振る。


「まだまだ。」


「もう一度頼む。」


「うん。」


颯太は理由を聞かない。


「もう十分だ」とも言わない。


奏が納得するまで付き合う。

それだけだった。


三度目の演奏が終わる。

奏は唇を強く噛む。


「くそっ」


思い描く演奏はできている。

指も動く。

音も出る。

それでも、何かが足りない。


何度繰り返しても、その答えだけは見つからなかった。


奏は唇を噛んだ。


「くそっ」


何度弾いても届かない。

思い描いている音には、あと少し届かない。

颯太は静かにギターをケースへ戻した。


「一回休憩しよう。」


奏は首を振る。


「そんな時間はない。」


「まだまだ足りないんだ。」


颯太は少しだけ笑う。


「ミホちゃんを見て。」


奏は怪訝そうな表情を浮かべる。


「楽しそう?」


「心配してない?」


「それで良いの?」


奏は言葉を失った。

ゆっくりとミホへ視線を向ける。

ミホは無理に笑顔を作っていた。


何か月も隣でギターを弾き続けてきた。

何度「もう一回」と言われても付き合ってきた。

そして今、心配そうに奏を見つめている。


奏は静かに視線を落とした。


「……わかったよ。」


「一回休憩する。」

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