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SEED  作者: 泣きピエロToY
第十章「光の中へ」
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第66話 左


颯太が姫希に声をかけた。


「姫ちゃん、行きたいとこあるんだけど一緒に行かない?」


姫希は思わず颯太の顔を見た。

突然の誘いだった。

すぐに笑顔を浮かべる。


「良いよ。」


(来たー! 初デート。一歩前進だぜ!)


平然とした顔のまま颯太の隣へ並ぶ。

二人は商店街へ足を踏み入れた。


通りには買い物を楽しむ人たちの姿があり、店先には野菜や果物が並ぶ。


惣菜屋では揚げ物を包む音が響き、パン屋からは焼きたての香りが流れてくる。

そんな賑わいの中を、二人は肩を並べて歩いた。


姫希が颯太を見上げる。


「どこいくの?」


「みんなには秘密にしておいて欲しいんだけど。」


颯太は少し照れくさそうに笑った。


「楽器屋さん。」


「いつものとこ?」


「ううん。違う。オリジナルギター作ってるとこ。」


姫希の表情が少しだけ変わる。


「もしかして私がエクスプローラ取っちゃったから新しいの買うの?」


颯太はすぐに首を横へ振った。


「違うよ。」


その答えに姫希は少しだけ安心した表情を見せる。

颯太は前を向いたまま続けた。


「もっと大事な事。」


二人はそのまま駅へ向かい、電車に乗った。

窓の外を流れる景色を眺めているうちに、目的の駅へ到着する。

改札を抜け、人通りのある通りを歩いていると、姫希がふいに足を止めた。


「颯太、ちょっと待って。」


「多分つけられてる。」


「え?」


颯太が振り返る。

姫希は迷わず男の方へ歩いて行った。


「お前どこ社だ?」


男は足を止め、困ったように頭を下げる。


「S社の斉藤です。」


「竹内さんのとこね。」


「今日は何?」


「二人の進展の様子をカメラに収めろと、デスクが。」


「そっか。あんたたちも大変だね。」


姫希は後ろを振り返った。


「颯太。」


呼ばれた颯太が隣へ来る。

二人が並ぶと、姫希は斉藤へ笑いかけた。


「今日は初デートで機嫌がいい。」


「写真撮っていいぞ。」


「かわいく撮れよ。」


斉藤はカメラを構え、二人へレンズを向ける。

姫希は颯太の隣へ自然に立ち、そのままカメラを見る。


「次からはコソコソすんなよ。」


「堂々とこい。」


「そしたら相手してやる。」


「はい。」


シャッター音が続けて響く。

立つ位置を少し変えながら、斉藤は三枚ほど写真を撮った。


カメラを下ろすと、姫希が口を開く。


「てかさ、私たちそんなに需要ある?」


「もっとビッグカップルおった方が良いんじゃない?」


斉藤は照れたように笑った。


「すいません。私、会見で姫希さんのファンになっちゃいまして。」


「行く末を見届けたいんです。」


「私ごとで申し訳ありません。」


姫希は携帯電話を取り出した。


「ルール守れるならまた来い。」


「これ、私の携帯。」


「アポ取りしろよ。」


「じゃあな。」


斉藤は両手で携帯番号を受け取り、大きく頭を下げた。


「ありがとうございます。」


二人は再び歩き始める。

少し歩いたところで、颯太が笑った。


「姫ちゃんかっこよかったけど、プライベートまでそのキャラ辛くない?」


姫希も笑う。


「大丈夫だよ。」


「颯太の前では甘えるから。」


二人は笑い合った。

しばらく歩いてから、姫希が小さく尋ねる。


「手繋いで良い?」


「うん。喜んで。」


颯太が手を差し出す。

姫希はその手を握ると、二人は並んで歩き出した。


やがて目的のギター工房へ到着する。


店内には様々な木材が並び、壁には製作途中のネックやボディが掛けられていた。

作業台には削りかけのボディが置かれ、奥から木を削る音が聞こえてくる。


颯太は受付へ向かい、姫希はその後ろをついて行った。


「ここでギター作って貰えるって聞いたので。」


颯太はギターケースを開き、レスポールを取り出す。

丁寧にカウンターへ置くと、職人は両手で受け取り、ネックの反りを確認し、構えたときの重心を確かめるように何度か持ち替えた。


「これと同程度のものが欲しいです。」


「出来れば重心や弦高とか重さとかも同じにしたいです。」


職人はレスポールを見つめたまま静かに頷く。


「なるほど。」


「形はレスポールタイプでよろしいですか?」


颯太は迷わず首を横へ振った。


「いえ。」


「エクスプローラでお願いしたいです。」


「左利き用で。」

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