↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SEED  作者: 泣きピエロToY
第九章「アスノヨゾラ哨戒班」
PR
65/87

第65話 願ったなら叶えなきゃ


記者会見当日。

会場へ向かう準備を終えた姫希は、玄関で振り返った。


「私、一人で行く。」


その言葉に、颯太はすぐ首を振る。


「俺も行く。」


だが姫希は、静かに笑った。


「これは私の戦いだから。」


少しだけ間を置き、続ける。


「私が颯太の部屋を仕事場にしたの。」


「だから責任は私にある。」


颯太は何か言おうと口を開く。

しかし姫希は、それを優しく止めた。


「だから見てて。」


「私の戦う姿!」


その笑顔は、もう迷っていなかった。


会見場。

無数のカメラが並び、記者たちが席を埋めている。

姫希が壇上に姿を現すと、眩しいほどのフラッシュが一斉に焚かれた。


進行役がマイクを握る。


「それでは、記者会見を始めます。」


「最初の質問をどうぞ。」


一人の記者が立ち上がった。


「熱愛報道は事実ですか?」


姫希は真っ直ぐその記者を見た。

そして一言。


「まず、その記事書いたやつ前に出ろ。」


会場がざわつく。

しばらく沈黙が流れ、一人の女性記者がゆっくり立ち上がった。


「私です。」


「S社芸能部、竹内です。」


姫希は頷く。


「あんたか。」


竹内は少し表情を引き締めた。


「改めてお聞きします。」


「熱愛は間違いないですよね?」


姫希は腕を組んだ。


「その前に、あんたに聞きたいことがある。」


竹内は首を傾げる。


「どうしたら熱愛できる?」


「……はい?」


「今、なんと?」


姫希は真顔のまま繰り返した。


「だから。」


「どうやったら熱愛まで発展出来るのか聞いてんだよ。」


記者たちは顔を見合わせた。

誰もこんな展開は予想していない。


姫希は構わず続ける。


「私はアピールしてきた。」


「なのに全然関係が進まない。」


「なぜだ?」


竹内は困ったように笑う。


「私に聞かれましても……。」


「熱愛に詳しいんだろ。」


「教えろよ。」


「えっと……。」


竹内は話題を戻そうとした。


「では、お二人は現在お付き合いを――」


「してねぇよ!」


姫希は即答した。


「したいけど進まないから今聞いてんだよ。」


「答えろ。」


竹内は完全に困ってしまう。

言葉が出てこない。

姫希は逆に質問を始めた。


「竹内さん。」


「彼氏いるの?」


「はい……います。」


「どうやった?」


「馴れ初めは?」


竹内は苦笑いする。


「それは……プライベートなことなので。」


姫希は呆れたように肩をすくめた。


「ケチ臭えな。」


会場のあちこちから笑い声が漏れる。

姫希は今度は会場全体を見渡した。


「なんだよ。」


「他に恋愛の進め方教えてくれる人います?」


誰も手を挙げない。

静寂だけが流れる。


「みんな答えたくないのか。」


「人には聞くくせに。」


「私は隠さず話してる。」


「他に聞きたいことある人。」


進行役が慌てて前へ出た。


「あの……私が進行致しますので……。」


姫希はため息をついた。


「おわりか?」


少しだけ考え込む。


「私は熱愛してない。」


首を横に振る。


「いや、違うな。」


「熱愛できてない。」


会場がまた静まり返る。

姫希は少しだけ遠くを見るような目をした。


「お母さんとの約束がある。」


「颯太のペースを大事にしてあげてって。」


少し笑う。


「ごめん。お母さん。」


「もう無理。」


姫希は大きく息を吸った。


「思いだけじゃダメだ、願ったなら叶えなきゃ」


「わたしの力で」


その宣言と同時に、入口付近がざわつき始めた。

進行役が慌ててイヤホンに手を当てる。


「皆様、お知らせします。」


「ただいま、颯太Zさんが会場入りしました。」


記者たちが一斉に振り返る。

姫希も思わず入口を見る。

さっきまで勢いよく話していた姫希が、不思議なくらい急におとなしくなった。


颯太はゆっくり壇上へ近づく。

そして姫希の前で立ち止まった。


「姫ちゃん。」


「ずっと見てたよ。」


「かっこよかった。」


姫希の頬が少し赤くなる。


「颯太……ありがとう。」


颯太は照れくさそうに頭をかいた。


「だから、一言言わせて。」


「うん。」


姫希の頭の中はお祭り騒ぎだった。


(告白来たー!)


(やっと私の恋愛が始まる。)


(最高だぜー!)


颯太は一度深呼吸をする。


「姫ちゃん……。」


少しだけ言い直した。


「ううん。」


「姫希。」


真っ直ぐ姫希を見つめる。


「結婚しよう。」


数秒。

会場が完全に止まった。


姫希は目を丸くした。


「は?」


「違うだろ。」


「まずはお付き合いだろ。」


「おい。」


「乙女の純情通り越して結婚だと?」


「は?」


「舐めてんの?」


「まずはデート!」


「何回かして!」


「キスとかして!」


「盛り上がって!」


「なんでそれ飛ばした?」


「あ?」


「聞いてんのか?」


颯太の顔色がみるみる青くなる。

勇気を振り絞って言った一言だった。

まさか怒られるとは思っていなかった。


姫希は大きくため息をつく。


「婚約はしてやる。」


颯太は顔を上げる。


「でも。」


「デートからだからな。」


「はいっ!」


颯太は大きな声で返事をした。

会場には笑いが広がる。

進行役は苦笑いを浮かべながらマイクを握った。


「もう……収拾がつきません。」


「本日の記者会見は、婚約会見ということでよろしいでしょうか?」


姫希は照れ笑いを浮かべる。


「はい。」


そして颯太の腕を軽く引いた。


「じゃあ、颯太。」


「帰るよ。」


翌日のニュース。


『JJ姫希婚約。でもデートしてから!』


ネットは朝から大騒ぎだった。

スマートフォンには、お祝いのメッセージが次々と届く。

姫希は通知の止まらない画面を見つめながら苦笑いした。


「なんかこれはこれでめんどくさいな。」


「……ほっといて欲しい。」


第九章 「アスノヨゾラ哨戒班」 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。