第59話 やっぱり、奏だ
『spicy girl』の最後の一音がライブハウスへ響き渡る。
ギターの余韻がゆっくりと消えていくと、ほんの一瞬だけ会場が静まり返った。
次の瞬間。
割れんばかりの歓声と拍手がライブハウスを包み込む。
「うおぉぉぉーー!!」
「最高だーー!!」
鳴り止まない拍手の中、JJと『Re:』のメンバーはそれぞれの楽器を置き、ステージ中央へ歩み寄った。
真っ先に歩き出したのはXだった。
一直線に颯太の前まで来ると、二人は静かに向き合う。
颯太は穏やかな笑みを浮かべた。
「やっぱり、奏だ。」
Xは少しだけ口元を緩める。
「違う。」
そう言って帽子を外した。
「奏Xだ。」
その返事に、颯太は思わず笑った。
二人の短いやり取りに、客席からも温かな笑いが漏れる。
少し離れた場所では、姫希とミホが再会を喜ぶように抱き合っていた。
何度も互いの背中を叩きながら笑い合う二人の目には、うっすらと涙が浮かんでいる。
『Re:』のドラムが一歩前へ出た。
「詳しい話は、打ち上げの時でいいですか。」
大地は笑顔で頷く。
「もちろんです。」
その一言を合図に、ライブハウスは再び熱気を帯びる。
最後はJJと『Re:』による合同ライブ。
二組のメンバーが入り混じり、一夜限りのステージが始まった。
さっきまで対バンを繰り広げていた両バンドが、今度は同じ音楽を奏でる。
客席は大きな歓声と手拍子で応え、ライブハウスは最後まで熱狂に包まれた。
こうして、一夜限りの対バンライブは大成功のまま幕を閉じた。
その夜。
ライブハウス近くの居酒屋『音民』では、JJと『Re:』の打ち上げが始まっていた。
「お疲れ様!」
ジョッキやグラスがぶつかり合い、乾いた音が店内へ響く。
テーブルには料理が次々と運ばれ、ライブを終えたばかりのメンバーたちはようやく肩の力を抜いていた。
しばらく談笑が続いたあと、『Re:』のボーカルが立ち上がる。
「JJの皆さん。」
店内の視線が集まる。
ボーカルは深々と頭を下げた。
「数々の無礼、申し訳ありませんでした。」
そう言うと、隣に座る奏を指差す。
「全てXの責任です。」
奏はすぐに笑って返した。
「なんでだよ。」
ボーカルも笑う。
「お前が煽れって言ったんだろ。」
「そっちの方が面白いからって。」
その言葉に、店内は一気に笑いに包まれた。
姫希は笑いながらミホへ向き直る。
「それよりさ。」
「なんでミホが奏と一緒にバンドやってるの?」
ミホは小さく頷いた。
「Xのリハビリを、お母さんが担当してるんだ。」
「理学療法士だから。」
全員が自然と耳を傾ける。
「私、夏フェスを見に行ってたの。」
「そのあと病院で奏君を見かけて、『あれ? もしかしてJJのギタリストかな』って思って。」
「姫希の話題で近づいてみたら、やっぱり奏君だった。」
「それから一緒にギターを弾くようになって、そのままバンドに巻き込まれたの。」
姫希は納得したように何度も頷いた。
「そうなんだ。」
ミホは照れくさそうに笑う。
「あと……。」
その場の視線が自然とミホへ集まる。
少しだけ頬を赤くしながら、ミホは静かに口を開いた。
「今、お付き合いしてます。」
一瞬。
店内から音が消えた。
そして次の瞬間。
「「「えぇーーー!!」」」
全員が一斉に立ち上がりそうな勢いで驚きの声を上げる。
『Re:』のドラムは目を丸くしたまま奏とミホを交互に見つめた。
「ミホ、マジか。うわぁ、全然わからなかった。」
ミホは思わず笑ってしまう。
「お兄ちゃん、驚きすぎ。」
兄妹のやり取りに、店内は再び大きな笑いに包まれた。




