第58話 この曲は渡さない
「かっこいい演出しやがって。」
誰かが小さく呟いた。
『Re:』の五人がステージを降りる。
JJの四人は無言のまま機材の準備に取り掛かった。
すれ違っても、言葉は交わさない。
目も合わせない。
ぶつけるのは言葉じゃない。
音だ。
達磨はベースを肩に掛け、不敵に笑う。
「やってやんよ。本職の底力、見せてやる。」
その言葉に、颯太は思わず笑った。
「ダメだよ。」
達磨が振り向く。
「いつも通りの達磨さんでいいんだよ。」
颯太は穏やかな表情のまま続ける。
「達磨さんは天才なんだから。挑発には乗らない。」
達磨は小さく笑い、肩の力を抜いた。
この場で一番落ち着いていたのは颯太だった。
あのレフティベースを見つめながら、別れ際の言葉を思い出していた。
『俺はギタリストだ。』
その言葉を颯太は信じている。
今はきっと、何か理由があってベースを弾いているだけ。
いつか必ず、ギターを持って帰ってくる。
そう遠くない未来に。
だから。
もう、堪えきれなかった。
颯太はゆっくりとマイクを握る。
ライブハウスが静まり返る。
「今日は対バンを受けてくれて、ありがとう。」
短い言葉のあと、真っ直ぐ『Re:』を見据える。
「でも――この曲は渡さない。」
颯太はレスポールを高く掲げた。
「『spicy girl』!!」
「いきなりかよっ!」
達磨と大地が同時にツッコむ。
苦笑いを浮かべながらも、二人はすぐに演奏態勢へ入る。
姫希はマイクを握り締め、大きく叫んだ。
「行くぜーー!!」
高く飛び跳ねた瞬間、力強い歌声がライブハウスを突き抜ける。
颯太のレスポールが唸る。
達磨のベースが重低音を響かせ、大地のドラムが会場を揺らす。
JJの『spicy girl』が、一気にライブハウスを飲み込んだ。
観客は拳を突き上げ、熱狂の渦へと引き込まれていく。
ステージ袖では、Xが笑いながらメンバーへ声を掛ける。
「なっ? こいつらヤベェだろ。」
ボーカルは苦笑いを浮かべた。
「お前が『できる限り煽れ』なんて言うからさ。」
頭をかきながら笑う。
「マジでビビってる。あとで謝罪しなきゃ。」
ミホはステージを見つめたまま、目に涙を浮かべる。
「姫希……あんなに凄いんだ。」
隣でドラムが静かに笑った。
「対バンもやったし、俺ら今日でお役御免だな。」
少し照れくさそうに続ける。
「解散だ。」
Xは演奏を続けるJJを見つめたまま、小さく息を吐く。
そして四人へ向き直り、深く頭を下げた。
「みんな。」
「俺のわがままに付き合ってくれて、本当にありがとう。」




