第57話 この音の出し方は
対バン当日。
長野県の街中にあるライブハウスには、開演前から集まった観客の熱気が充満していた。
重低音が壁を震わせ、開いた扉からはギターの音が漏れ聞こえてくる。
JJの五人が会場へ足を踏み入れた時には、すでに『Re:』のライブが始まっていた。
ステージには五人のメンバー。
ボーカル。
女性ギター。
キーボード。
ドラム。
そして、レフティベース。
五人の音は一つにまとまり、初めて見るバンドとは思えないほど完成度が高い。
達磨は腕を組み、レフティベースから目を離さなかった。
「……あのレフティベース、かなりうまいぞ。あいつだけ異色だ。」
低音の一音一音に迷いがない。
まだ荒さは残るものの、演奏には強烈な存在感があった。
颯太もステージを見つめながら頷く。
「あの女性ギターもかなり上手だよ。」
鋭いカッティング。
歌を引き立てるバッキング。
必要なところだけ前へ出るソロ。
どれも無駄がなかった。
その横で、姫希だけは演奏を見つめたまま、目に涙を浮かべていた。
颯太はその様子に気付き、小さく声を掛ける。
「どうしたの?」
姫希は震える指で女性ギタリストを指差した。
「あのギタリスト……ミホだよ。」
颯太たちは驚いた表情でステージを見る。
「昔、私が組んでたバンドのギター。」
目に浮かんだ涙を拭い、嬉しそうに笑う。
「引っ越ししちゃって解散したバンドの。」
「またギター弾いてる……。」
「良かった……。」
大地が思わず口を開く。
「なんでそのミホちゃんが『Re:』に?」
その瞬間だった。
颯太の口元がゆっくりと緩む。
まるで何かに気付いたように、楽しそうに笑っていた。
「達磨さん、あのベース上手いの?」
達磨は即答する。
「かなりな。まだ荒いけど。」
颯太はステージから目を離さない。
「あの人、ベースが本職じゃないよ。」
達磨が眉をひそめる。
「なんでわかる?」
颯太は静かに答えた。
「レフティベース。帽子。メガネ……顔はわからない。」
視線をベーシストへ向けたまま、小さく笑う。
「でも、この音の出し方は間違いなく奏だ。」
その言葉に、達磨も大地も姫希も一斉にレフティベースを見る。
しかし、帽子を深く被り、メガネを掛けたその姿からは顔までは判別できなかった。
その時だった。
演奏が終わり、ボーカルがマイクを握る。
「皆さん、お待ちかね!」
会場から大きな歓声が上がる。
「JJが到着だ!」
さらに歓声が大きくなる。
ボーカルは不敵な笑みを浮かべた。
「一曲勝負、始めるぜ!」
会場の空気が一変する。
「――『poison girl』!!」
ドラムが鳴り響き、鋭いギターリフが会場を切り裂く。
いきなり始まった、音だけのバトル。
ミホは汗を飛ばしながら必死にギターを奏でる。
レフティベースは重厚な低音でバンド全体を支え、ドラムとキーボードが隙間なく音を埋めていく。
誰一人として手を抜かない。
一曲にすべてをぶつける演奏だった。
そして最後の一音が鳴り終わる。
余韻が会場を包む中、『Re:』の五人は一斉にJJへ向かって指を差した。
「次は、お前たちの番だ!」




