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SEED  作者: 泣きピエロToY
第八章「遠く遠く」
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第54話 もう一度、あの感覚に届きたい


「もう一回いく?」


達磨がベースを抱え直しながら笑う。


「あたぼうよ。」


大地もスティックを握り直した。


「じゃあ。はじめから。」


颯太はレスポールを構え、静かに息を吸う。


「ワン、ツー……」


カチャリ。


颯太の部屋の扉が開き、母さんがひょこっと顔を出した。


「もう、遅いからそろそろやめなさい。」


四人の視線が一斉に母さんへ向く。


「夕飯出来てるわよ。食べてくでしょ。」


母さんは部屋を見回した。

毎日聞こえてくるギターの音。

今日は、その音がいつもと違う。


音が増えている。

笑い声が混ざっている。


細かいことはわからない。

けれど、颯太が心から楽しそうに笑っている。

それだけは、母親だからわかる。


自然と頬が緩んだ。


「今日はカレーよ。」


鍋いっぱいに作ったカレー。

きっと足りる。

いや、少しくらいおかわりされたって構わない。


「賑やかになるわねー。」


そう言い残し、母さんは静かに扉を閉めた。

部屋に残った四人は顔を見合わせる。


達磨

「今日一番の衝撃だわ。」


大地

「颯太の親って感じ。」


姫希

「ご飯行くよ。」


達磨・大地

「姫、慣れすぎ!!」


さっきまで張りつめていた空気が、一気にほぐれた。


颯太はレスポールを抱き上げる。

さっきまで荒々しく鳴っていたギターを、今度は壊れ物でも扱うようにケースへ収めた。


静かに蓋を閉じる。

指先が一瞬だけケースに残る。


「行こう。」


四人は部屋を出た。


廊下へ出ると、スパイスの香りが鼻をくすぐる。

自然と笑みがこぼれた。

リビングには湯気の立つカレー。


「いただきます。」


声が重なる。

笑い声も重なる。

おかわりをする者。

それを見て笑う者。


母さんも笑っている。

さっきまで部屋いっぱいに鳴り響いていた音楽とは違う。


それでも、この時間も心地良かった。


そして、不思議なことに。

誰一人として音楽の話はしなかった。


「さっきのさ。」


そんな一言すら出ない。

言葉にしたら、ダメな気がした。


胸の奥で鳴っている、あの音が。

指先に残っている、あの感覚が。

消えてしまいそうだった。


だから誰も口にしない。

音は明日。

スタジオで、もう一度ぶつける。


きっと今日よりもっと遠くへ行ける。


待ちきれない。

ただ――

もう一度、あの感覚に届きたい。


四人の胸にあったのは、その想いだけだった。

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