第52話 ありえないことが起きてるんだ
四人は颯太の部屋に集まっていた。
「この曲は昔、俺が作ろうとした曲。」
部屋の空気が少しだけ張り詰める。
達磨は腕を組み直し、大地は颯太から目を離さない。
姫希も、何かを聞き漏らすまいと真っ直ぐ颯太を見つめていた。
「作りきれなくて、奏に助けを求めたんだ。」
颯太はテーブルの上の封筒を手に取る。
「そして、この封筒。」
「多分、奏からだと思う。」
「“アレンジしてみろ”って書いてあった。」
封筒を静かにテーブルへ戻す。
「昔、奏が言ってたんだ。」
「アレンジできないくらい完璧な曲を作るって。」
「だからこれは、奏から俺への挑戦だと思う。」
達磨は一度だけ小さく頷く。
あの奏なら、そういうことを言う。
大地も静かに腕を組み、姫希は封筒へ視線を落とした。
誰も疑わない。
それが奏だと知っているからだ。
「ちなみに、Poison Girlってタイトルを付けたのは、その時の奏。」
「でも、奏が今ギターを弾けているとは思えない。」
「それに、奏が自分たちの曲を他人に渡すこともありえない。」
颯太は三人を見渡した。
「これだけは絶対。言い切れる。」
誰も口を挟まない。
「でも、他のバンドがPoison Girlを演奏してた。」
「ありえないことが起きてるんだ。」
部屋が静まり返る。
達磨は腕を組んだまま考え込む。
大地は顎に手を当て、ゆっくり息を吐いた。
姫希も唇を結んだまま俯く。
誰も答えを持っていなかった。
「だから、どうしたら良いのか考えたんだ。」
颯太はそう言いながら立ち上がる。
壁に立て掛けてあったレスポールを手に取ると、自然な動きで肩へ掛けた。
その姿を見た達磨の口元がゆっくりと緩む。
さっきまでの重たい空気が少しずつ変わり始める。
大地は肩を回し、小さく首を鳴らした。
ライブ前の癖だった。
姫希も颯太から目を逸らさない。
迷いながら話していた颯太は、もうそこにはいなかった。
「Spicy Girlを完成させて、Poison Girlにぶつける。」
達磨がニヤリと笑う。
ようやく颯太らしい言葉が出た。
大地の表情にも自然と力が戻る。
姫希の胸の奥で、何かが熱く弾けた。
その曲を歌う自分の姿が、はっきりと思い浮かぶ。
「対バンだ。」
その一言で、四人の空気が一つになる。
達磨はもう腕を組んでいなかった。
大地はいつでも叩けるような顔をしている。
姫希もさっきまでの不安は消え、真っ直ぐ前だけを見ていた。
颯太は三人を見渡す。
三人とも、もう答えは決まっていた。
「力を貸して欲しい。」
達磨は不敵に笑う。
大地は力強く頷く。
姫希も迷いなく笑みを返した。
そんなの、当たり前だ。
誰もが同じことを思っていた。
やっと、あの昔の颯太が帰ってきた。
第七章 「STAY GOLD」 完




