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SEED  作者: 泣きピエロToY
第七章「STAY GOLD」
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第47話 音が跳ねてる


姫希とのネット配信を楽しみながらギターを続け、あれから三ヶ月が過ぎた。

毎日のようにギターを弾き、配信をして、姫希と笑い合っている。


そんな日々を繰り返しているうちに、失いかけていた勘が少しずつ戻ってきていた。


姫希も毎日のように家へ来ては歌い、夕飯を食べて帰る生活がすっかり当たり前になっている。


ただ一つだけ気になることがあった。


たまに姫希と母さんが二人で台所に立ち、何やらヒソヒソ話をしているのだ。聞こうとして近付くと、二人とも顔を見合わせて笑うだけ。


「内緒。」


そう言われるたびに、颯太はなんとも言えない気持ちになった。


そんなある日の午後。

颯太宛に一通の封筒が届いた。


差出人の名前はない。


「……誰だ?」


首をかしげながら封を切る。


中には一枚の楽譜。

一枚のCD。

そして、小さなメモが一枚。


そこには乱暴な字で、たった一言だけ書かれていた。


『アレンジしてみろ』


颯太は眉をひそめ、楽譜へ視線を落とす。


タイトルは――


『Spicy Girl』


「なんで……?」


「まさか……。」


頭の中が真っ白になる。

でも、その答えはどこにもない。

颯太はすぐにCDをプレーヤーへ入れ、再生ボタンを押した。


静かな部屋にギターが鳴り響く。

イントロが流れた瞬間、息を呑んだ。


「……。」


間違いない。

あの曲だった。


未完成のまま止まっていた『Spicy Girl』。


奏と二人で作りかけた、あの曲。


「……完成してたんだ。」


颯太は最後まで聴き終えると、すぐにもう一度再生した。


一回では足りない。


何度も。


何度も。


アレンジも、リズムも、細かなニュアンスも、一音たりとも逃したくない。

耳で覚え、体に刻み込むように聴き続けた。


演奏が終わる。

また最初から流す。


その繰り返しだった。


やがて颯太は立ち上がり、部屋の隅へ歩く。

視線の先にあったレスポールへ自然と手が伸びた。


「……あ。」


自分でも少し驚く。


無意識だった。

けれど、その驚きはすぐに消える。


今は、それ以上に弾きたいという衝動の方がずっと強かった。


まずは音源をそのままなぞる。

完璧にコピーする。

それだけを考えてレスポールを鳴らす。


CDを止めては弾き、また再生する。

耳で覚え、指で覚え、体で覚える。


何度も繰り返すうちに、不思議と指が軽くなっていく。


ふと、違うフレーズが指先からこぼれた。


「……。」


考えたわけじゃない。

自然とアレンジが浮かんでくる。

指が勝手に走り始める。


その瞬間だった。


バンッ!


勢いよく部屋の扉が開いた。


「颯太!」


飛び込んできたのは姫希だった。

少し息を切らし、今にも泣きそうな顔で颯太を見つめる。


そしてレスポールの音を聞いたまま、小さく笑った。


「音が跳ねてる。」


嬉しそうに続ける。


「楽しそう。」


その一言で颯太は我に返った。


「あっ……。」


さっきまで自然に浮かんでいたフレーズは、もうどこにもなかった。


「姫ちゃん……。」


颯太はレスポールを抱えたまま項垂れる。


「せっかく良いフレーズ浮かんだのに、消えちゃった。」


姫希はくすっと笑った。


「大丈夫。」


「何度でもやれば良いさ。」


「きっともっと良くなる。」


その言葉に、颯太の肩から少しだけ力が抜けた。


「ところで、なんの曲?」


颯太は送り主不明の封筒が届いたこと、楽譜とCD、そして『アレンジしてみろ』と書かれたメモが入っていたことを話した。


奏とのことだけは伏せた。


「Spicy Girlかぁ。」


姫希は楽譜のタイトルを見つめる。

そして、いたずらっぽい笑顔で颯太を見た。


「私みたい?」


颯太は照れくさそうに笑う。


「そうだよ。」


「この曲は姫ちゃんなんだよ。」


少しだけ言葉を探す。


「きっと……。」


姫希は楽譜をめくりながら首をかしげた。


「この曲、歌詞ないじゃん。」


「これじゃ歌えない。」


少し考え、颯太を見つめる。


「歌詞つけて良い?」


「うん。お願い。」


颯太はレスポールを構えた。

もう一度、『Spicy Girl』を弾き始める。


一度。

また最初から。


何度も。


何度も。


姫希は何も言わず、その旋律を静かに聴き続けた。

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