第43話 歌いに来たよ
颯太は部屋の隅にレスポールを立て掛けた。
奏から託された、大切なギター。
いつになるかわからないが、次にライブをするときまでは弾かないと決めていた。
部屋を掃除し、何から始めようかと考えていたとき、インターフォンが鳴る。
姫希だ。
いつも突然やって来る。
今日は何か荷物を抱えていた。
「歌いに来たよ。」
「いつも突然だね。」
「だめ?」
「ダメじゃない。いつでも歓迎。」
姫希は満足そうに部屋へ入り、抱えていた荷物をテーブルへ置いた。
「じゃーん!! ノートパソコン!」
「どうしたの?」
「さっき買ってきた。職場に置こうかと思って。」
「仕事始めるの?」
「うん。ここで。」
「……ん?」
姫希は意味ありげに笑う。
「ん? 何? 何?」
「私、颯太の横で歌い続けるって言ったじゃん。」
少し首を傾げ、上目遣いで颯太を見つめながら笑う。
「だからここで歌う。ネットに歌をあげて、収益もらうって決めたの。凄いでしょ。」
「歌い手?」
「そう。ここにはギターもあるし、ギター習いながら歌いたいな。」
「ギター一本しかないよ。」
「あるじゃん。」
姫希は部屋の隅に立て掛けられたレスポールを指差した。
「あれはダメだよ。ライブ用。」
「弾いてもらえなくて楽器が泣いてるぜ。」
姫希はそう言うと、自分は颯太のエクスプローラを手に取り、レスポールを颯太へ差し出した。
「大丈夫。私は颯太の使うから、颯太はあっち使って。」
「いや、そういう問題じゃ……。」
なぜか主導権は姫希にあった。
この日から姫希は毎日部屋へ来るようになった。
歌う。
ギターを弾く。
颯太はレスポールでコードを弾き、姫希はエクスプローラを抱えて夢中で指を動かす。
ライブ用レスポールは、いつしか姫希にギターを教えるための教習用レスポールになっていた。




