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SEED  作者: 泣きピエロToY
第六章「ジターバグ」
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第41話 ずっと私はそばにいる


颯太は苦しんでいた。

毎日ギターを手に取る。

ケースを開けることだけはやめなかった。


ピックを握り、アンプの電源を入れる。


弦を弾く。

指は動く。


昔なら自然と溢れてきたフレーズが、今は何一つ浮かんでこない。


何度弾いても違う。

何度弾いても納得できない。


音は出ている。

それなのに音楽にならない。


奏と並んで弾いていた頃の景色だけが頭をよぎる。


「あの頃は、どうやって弾いてたんだ……。」


答えは返ってこない。

静かな部屋に、自分のギターだけが虚しく響いていた。


そんなある日。

姫希の呼びかけで、メンバー全員が集まった。


誰も口を開かない。

重苦しい空気だけが部屋を包んでいる。

その沈黙を破ったのは姫希だった。


「今のJJは活動が出来てない。」


誰も目を合わせない。

分かっていた現実だった。


「このままじゃダメになる。」


誰も否定できなかった。

そして姫希は、小さく息を吸う。


「……解散しよ。」


その一言が、部屋の空気を止めた。


「ダメだ。」


颯太が顔を上げる。


「ダメだよ。」


声は震えていた。


「この場所……残さなきゃ。」


姫希は真っ直ぐ颯太を見つめる。


「みんなで泥舟乗ってどうすんの?」


冷たい言葉だった。

でも、その瞳は今にも泣き出しそうだった。


「私は歌いたい。」


静かに続ける。


「達磨だって、大地さんだって生活あるの。」


「二人は音楽で食べてる。」


「活動してないバンドにいたって意味ないの。」


颯太は何も返せない。


言い返したい。

でも、何を言えばいいのか分からなかった。


その時だった。

達磨が立ち上がる。


「すまん。」


静かな声だった。


「姫にそれを言わせたらダメだった。」


達磨はゆっくり颯太を見る。


「俺はJJを抜ける。」


その言葉は、もう決まっていた決断だった。

続いて大地も立ち上がる。


「俺もflagshipに助っ人加入することにした。」


苦笑いを浮かべる。


「すまん。」


長い付き合いだからこそ、それ以上の言葉はなかった。


そして最後に奏が立ち上がる。

左手にはまだギプス。


「俺、リハビリのため引っ越す。」


全員が驚いて顔を上げる。


「今まで言えなかった。」


少し照れくさそうに笑う。


「みんな、ありがとう。」


誰も引き止められなかった。


一人。


また一人。


JJから仲間がいなくなる。

最後まで残ったのは颯太だけだった。

こうしてJJは、静かに幕を閉じた。


その日の夜。

部屋の明かりもつけないまま、颯太はベッドに腰掛けていた。


膝の上にはギター。

ぼんやりと弦を見つめる。


ピックを持ち、ゆっくり弦を弾く。


一音。


また一音。


音は鳴る。

それだけだった。


何も感じない。


何も浮かばない。


ただ、空っぽの音だけが部屋を漂っていた。


コンコン。


小さく玄関のドアが鳴る。

重い足取りで玄関を開ける。


そこには姫希が立っていた。


「……入るね。」


颯太は何も言わず道を開ける。

姫希は部屋へ入り、颯太の隣へ腰を下ろした。


ギターを見つめたまま、小さく息を吐く。


「さっきはごめん。」


颯太は黙ったまま聞いていた。


「解散したくないのは分かってた。」


少しだけ笑う。


「でも、達磨と大地さんのこと考えたら……解散しかなかった。」


長い沈黙。


「……分かってるよ。」


颯太はそれだけ答えた。

姫希は膝を抱えながら、小さく横を向く。


「ギター、弾いてる?」


「あぁ。」


短い返事だった。

姫希は首を横に振る。


「……嘘。」


颯太は言葉を失う。


「弾けないんでしょ?」


見透かした声だった。


毎日一番近くで見てきたから。

颯太が強がっていることも。

本当は苦しんでいることも。


全部知っていた。


颯太は何も答えられなかった。

否定できなかった。


姫希は優しく笑う。


「大丈夫。」


「私はどこでも歌える。」


「だから、私は颯太の横で歌い続ける。」


真っ直ぐ颯太を見る。


「ずっと私はそばにいる。」


颯太の目はまだ伏いたままだった。


「いつか私の歌で、また弾きたいって思わせるから。」


少しだけ間を置く。


「だから今は、しっかり休んで。」


そう言うと、姫希はそっと颯太を抱きしめた。


その温もりに触れた瞬間。

今まで必死に押さえ込んでいた感情が、一気に溢れ出した。


病院で奏の左手のことを聞いた日も。

レコーディングで満足に弾けなかった日も。

解散を告げられた今日も。


ずっと涙は出なかった。


姫希の腕の中で、張り詰めていた心は静かにほどけていく。


肩が震える。


嗚咽が漏れる。


止めようとしても止まらない。


奏の事故以来。

初めて、颯太は涙を流した。

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