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SEED  作者: 泣きピエロToY
第六章「ジターバグ」
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第40話 絶対答えに辿り着けないのわかっちゃった


アルバムのレコーディングは終わった。


予定されていたライブもない。


JJというバンドは存在している。


それなのに、時間だけが止まってしまったようだった。


颯太は毎日ギターケースを開ける。


アンプの電源を入れ、ピックを握る。


弦を鳴らす。


フレーズを繋げる。


何度も。


何度も。


何度も。


それでも、胸の奥に残るのは虚しさだけだった。


以前なら、颯太が投げたフレーズに奏が応える。


奏のギターが返事をする。


その返事に、また颯太が応える。


言葉はいらない。


二本のギターだけで会話が成立していた。


今は違う。


どれだけ弾いても返事はない。


自分の音だけが部屋に響く。


レコーディングでもそうだった。


OKテイクは何度も出た。


それでも録り直した。


また録り直した。


何度弾いても違う。


何度弾いても足りない。


奏に聴かせられる音にならない。


その答えは、最後まで見つからなかった。


その日を境に、颯太は少しずつギターから離れていった。


ケースを開けない日が増える。


弦を張り替えない。


アンプの電源も入れない。


音楽だけが、少しずつ遠ざかっていった。


ある日の朝。


学校へ向かう途中、颯太はふと河原へ足を向けた。


土手に寝転び、青空を見上げる。


雲がゆっくり流れていく。


「……学校行きたく無い。」


誰に聞かせるでもない独り言だった。


目を閉じる。


風が頬を撫でる。


「何やってんだ。遅刻するぞ。」


聞き慣れた声だった。


颯太は勢いよく飛び起きる。


「……奏。」


事故以来、初めて会う。


制服姿の奏が立っていた。


左手には白いギプス。


首から吊られた固定具。


その姿を見た瞬間、颯太は視線を逸らした。


まともに見ることができない。


そんな颯太の隣へ、奏は何も言わず腰を下ろした。


川の流れる音だけが聞こえる。


「今日は学校サボりたい気分。」


颯太がぽつりと呟く。


奏は少し笑う。


「そっか。」


そして空を見上げたまま言う。


「俺も。」


その一言で、二人は少しだけ笑った。


長い沈黙が流れる。


やがて奏が口を開く。


「ギター弾いてるか?」


「……少しだけ。」


「なんで?」


少し間を置いて続ける。


「弾けよ。」


その一言で、颯太の中に溜まっていたものが溢れ出した。


颯太はゆっくり立ち上がる。


「ギター弾くんだよ。」


奏を見ないまま話し始める。


「何度も。」


「何度も。」


「何度も。」


言葉を重ねるたびに、悔しさが滲む。


「でも、あの感覚には程遠い。」


拳を握る。


「あの時みたいにならない。」


「また。」


「何度も。」


「何度も。」


「弾いて。」


しばらく黙り込む。


川のせせらぎだけが二人の間を流れていく。


颯太は力なく笑った。


「絶対答えに辿り着けないのわかっちゃった。」


その瞬間だった。


「答えなんてなくたって良いじゃねぇか!」


奏の声が河原に響いた。


颯太は驚いて振り向く。


事故以来、初めて見る奏の激情だった。


「弾けよ。」


震える声。


「どんどん弾け。」


ギプスを巻いた左腕がわずかに震えている。


「やめるな。」


息を飲み、絞り出すように叫ぶ。


「弾けよ……。」


奏は左手のギプスへ視線を落とした。


「俺は弾きたくても弾けないんだよ。」


その声には怒りも悲しみも、全部混ざっていた。


「新しいメロディが湧き上がってくんだよ。」


胸を押さえる。


「凄い勢いで。」


苦しそうに息を吐く。


「それを自分で表現出来ないんだ。」


歯を食いしばる。


「わかるか?」


目を閉じた。


「早く生み出してくれって……。」


震える声が途切れる。


「聞こえるんだよ。」


しばらく沈黙が続く。


「でも……出来ないんだ。」


その言葉は、自分自身を責める叫びだった。


颯太の肩が震える。


何も言えない。


言葉が見つからない。


奏は涙をこらえながら顔を上げた。


「お前はいつか。」


まっすぐ颯太を見る。


「最高の仲間と最高のライブをやる。」


その目だけは真っ直ぐだった。


「それが可能なんだ。」


そして、小さく笑う。


「ギターをやめないでくれ。」


颯太は返事をしなかった。


できなかった。


ただ、その言葉だけが胸の奥深くに残った。


その日の帰り道。


颯太はまっすぐ家へ帰ると、部屋の隅に立て掛けてあったギターケースを手に取った。


静かにケースを開ける。


ギターを抱え、アンプの電源を入れる。


ピックを握る。


その日から、颯太はまたギターに触れるようになった。

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