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SEED  作者: 泣きピエロToY
第六章「ジターバグ」
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第37話 奏は基本、音楽一本だからな


夏フェスを終えてからというもの、JJの周囲は慌ただしくなっていた。


ライブハウスからの対バンの申し込み、音楽雑誌やネットメディアからの取材依頼、そしてライブ会場で販売したTシャツについての問い合わせ。


スマートフォンは一日中鳴り止まず、メールボックスには未読の通知が積み重なっていく。


その対応を一人で引き受けていたのは、奏だった。


「……捌ききれない。誰か手伝って……。」


机に突っ伏しながら、力なく呟く。


いつもなら冷静で、どれだけ忙しくても表情一つ変えない奏が、今日は明らかに疲れ切っていた。


「奏、目にクマできてる。」


姫希が顔を覗き込み、心配そうに言う。


奏は「大丈夫」と言おうとしたが、言葉より先にため息が漏れた。


達磨も腕を組みながら苦笑する。


「奏は基本、音楽一本だからな。こういう事務仕事は向いてねぇよ。このままだと作曲に影響出るぞ。」


「それは困る。」


颯太も真面目な顔になる。


JJの曲は、ほとんど奏の作曲から始まる。


その奏が音楽に集中できなくなるのは、バンド全体にとって大きな問題だった。


「そろそろ、どこかと契約してマネージャーつけて欲しいよね。」


大地がコーヒーを飲みながら言う。


「今のままじゃ、奏一人に負担が集中しすぎだ。とりあえず後輩に応援頼んでおく。」


「頼りになるのは大地さんだけか。」


奏は少し笑いながらそう返した。


「おいおい、俺らも手伝う気はあるぞ。」


達磨が肩をすくめると、部屋に少しだけ笑いが戻る。


そんな空気の中、颯太がスマートフォンを見ながら思い出したように口を開いた。


「そういえば、flagshipから連絡来てたよ。」


「何?何?」


姫希がすぐに反応する。


「一緒にアルバム作らないか?って。」


颯太はメッセージを読み返しながら続けた。


「まだflagshipだけじゃ不安なんだって。だから何バンドか集めて、一枚のアルバムを作りたいらしい。」


部屋が少し静かになる。


達磨は迷うことなく答えた。


「その話、受けようぜ。」


全員の視線が達磨に集まる。


「俺らだって単独のアルバム自費出版はキツいぞ。こういうチャンスは逃さない方がいい。」


現実的な意見だった。


自主制作でアルバムを出すには、録音、プレス、ジャケット制作など、多くの費用がかかる。


今のJJには、まだ簡単に出せる金額ではない。


颯太はさらに続ける。


「flagshipの知り合いバンドのBLACK TAXIも参加するみたい。」


「ブラタクか。」


大地がすぐに反応した。


「あれはパワーあるぞ。」


「知ってるの?」


奏が顔を上げる。


「フェスで俺達の二つ前にやってた。」


「あぁ、あのバンドか。」


奏も演奏を思い出した。


勢いだけではない、しっかりとした演奏力が印象に残っている。


少し考えたあと、奏はゆっくり頷いた。


「受けよう。」


その一言で空気が決まる。


「いつからだ?」


「再来月から始めるみたい。」


颯太が答えると、メンバーはそれぞれ頷いた。


夏フェスで得た勢いは、ライブだけでは終わらない。


JJは次の挑戦――新たなアルバム制作へ向けて、一歩踏み出すことになった。

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