第36話 鬼はここにいるぞ!!
『DIVE』が終わる。
最後のコードが消えると同時に、第四ステージは割れんばかりの歓声に包まれた。
観客の熱気は最高潮。
しかし、五人の息は荒かった。
ここまで全力で駆け抜けてきた疲労が、少しずつ身体に現れ始めていた。
残るは、あと一曲。
その時だった。
「バチッ!」
どこかで電気が弾けるような音が響く。
次の瞬間、大型スクリーンが真っ暗になった。
続いてステージを照らしていた照明も一斉に消える。
客席がざわめく。
スタッフたちは慌ただしく機材を確認し始めた。
ショートした。
誰もがそう思った。
だが、奏はアンプから聞こえる小さなノイズを確認する。
颯太もギターを軽く弾く。
音は返ってきた。
マイクも生きている。
颯太はニヤリと笑い、マイクへ向かった。
「音は生きてるし、行っちゃうよ。」
その一言だけだった。
次の瞬間。
颯太のギターが、不気味にうねる。
『ONI』。
奇怪なリフが暗闇のステージへ響き渡る。
照明がなくても関係ない。
スクリーンが映らなくても関係ない。
今、この場所に必要なのは音だけだった。
姫希はマイクを握りしめ、大きく叫ぶ。
「鬼はここにいるぞ!!」
客席から雄叫びのような歓声が返ってくる。
「お前らも鬼か!!」
「うおおおおお!!」
数え切れないほどの叫び声。
姫希はさらに拳を突き上げた。
「鬼なら行くぞ!!」
ほんの一瞬、息を吸う。
「鬼ヶ島!!」
会場が爆発した。
奏と颯太のツインギターが鋭く絡み合う。
達磨のベースは地鳴りのように響き、
大地のドラムは雷鳴のように叩き続ける。
姫希の歌声が、そのすべてを引き連れて突き進んでいく。
風はさらに強くなる。
横殴りの風がステージを吹き抜け、旗が激しくはためいた。
遠くを見れば、他のステージには雨のカーテンが降りている。
中止を告げるアナウンスが、風に乗ってかすかに聞こえてきた。
それでも第四ステージだけは、奇跡のように持ちこたえていた。
まるで、このライブを最後まで終わらせるためだけに時間が止まっているようだった。
五人は一歩も止まらない。
全力で音をぶつけ続ける。
そして――。
『ONI』最後の一音が夜空へ突き抜けた。
余韻だけが会場に残る。
誰も動かない。
静寂のあと、一瞬遅れて歓声が爆発した。
耳が痛くなるほどの拍手。
叫び声。
口笛。
そのすべてを背中で受けながら、五人は顔を見合わせる。
誰も言葉を発さない。
それでも伝わった。
最後まで走り切れた。
その達成感だけが、五人の胸を満たしていた。
ゆっくりとステージを降りる。
その瞬間だった。
空が堪えていたものを吐き出すように、土砂降りの雨が一気に降り始めた。
さっきまで耐えていた空が、ライブの終演を待っていたかのようだった。
観客は雨に打たれながらも、その場を離れようとしない。
誰もが同じことを口にしていた。
「Justice Judgmentのライブは、天候すら支配する。」
この日のライブは、ただ成功したライブではなかった。
照明が消えても止まらず。
嵐が迫っても走り続け。
最後の一音と同時に豪雨が降り始めた。
そのすべてが重なり、この夏フェスでのJustice Judgmentのライブは、伝説として語り継がれることになった。
第五章 「閃光」 完




