第35話 結局こうなるのかよ
達磨のベースが静かに鳴り始める。
低く響く一音が会場を包み込み、その上へ奏と颯太のギターが重なった。
『DIVE』。
イントロが鳴った瞬間、客席から大きな歓声が湧き起こる。
JJを知る者なら誰もが知っている。
この曲こそ、Justice Judgmentの原点だった。
もう何回演奏したのか分からない。
ライブのたびに演奏し、何度も何度もアレンジを重ねてきた。
それでも、この曲は完成することがない。
演奏するたびに姿を変え、今もなお進化を続けている。
奏と颯太が初めて二人でアレンジした曲。
五人が初めて音を合わせた曲。
姫希の声を、一つの「楽器」として認めた曲。
すべての始まりが、この『DIVE』だった。
だから今日、この夏フェスのステージで外せるはずがなかった。
颯太はギターをかき鳴らす。
思いが強くなればなるほど、彼の演奏は理性より感情が前へ出る。
奏はそれを誰より知っていた。
だから止めるつもりはない。
演奏しながら颯太を見る。
颯太も奏を見る。
ほんの一瞬。
二人の視線が交わる。
奏は小さく頷いた。
――行け。
その合図だった。
颯太は一気に走り出す。
ギターは予定されていたフレーズを飛び越え、感情のままに歌い始める。
速く。
激しく。
自由に。
それでも決して崩れない。
奏はその音を受け止めるようにギターを重ね、二本のギターはぶつかり合いながらも美しく絡み合っていく。
その光景を見た達磨は笑った。
「結局こうなるのかよ。」
隣で大地もスティックを握り直す。
「受けて立つ。」
二人の表情から緊張は消えていた。
代わりに浮かんでいたのは、演奏を楽しむ笑顔だった。
達磨はベースラインを変える。
リハーサルにはなかったフレーズ。
その音に反応して大地のフィルインも変わる。
もう譜面通りではない。
ほとんど即興だ。
それでも五人は迷わない。
誰かが変えれば、誰かが応える。
音が音を呼び、新しいアレンジがその場で生まれていく。
これがJustice Judgmentだ。
姫希はステージの中央へ飛び出し、大きく拳を突き上げる。
満面の笑みを浮かべ、叫んだ。
「最高だぜ!!」
「DIVE!!」
その声に観客が応える。
拳が一斉に上がり、大歓声が第四ステージを包み込んだ。
奏は笑っていた。
颯太も笑っていた。
達磨も、大地も、姫希も笑っていた。
五人とも分かっていた。
まだ終わりじゃない。
まだまだ進化できる。
もっと熱くなれる。
『DIVE』は始まりの曲。
そして今もなお、Justice Judgmentと共に進化し続ける曲だった。
その瞬間、この夏フェスだけの『DIVE』が生まれていた。




