第33話 時間です!
JJのライブ開始三十分前。
ステージ袖には独特の緊張感が漂っていた。
客席から聞こえる歓声、スタッフの無線、チューニングをする楽器の音。
そのすべてが、まもなく始まるライブを知らせている。
五人はそれぞれ、自分なりの方法で本番へ気持ちを整えていた。
奏は手にしたセットリストへ最後に目を通す。
『姫ラップ』
『Impact』
MC
『KAMINARI』
MC
『DIVE』
『ONI』
一つひとつ確認し、小さく頷いた。
「これで行く。」
「最終決定。」
達磨と大地はその言葉を聞きながら軽く身体を動かしている。
肩を回し、手首をほぐし、リズムを確認するように足を鳴らす。
平静を装ってはいるものの、表情には本番前ならではの緊張が滲んでいた。
姫希は深く呼吸をしながらストレッチを続けている。
首を回し、肩をほぐし、脚を伸ばす姿は、まるで試合直前のアスリートそのものだった。
そして、いつも通り落ち着きがない男が一人。
颯太だった。
ステージ袖を右へ左へ歩き回り、立ち止まったと思えばギターを持ち直し、また歩き出す。
何度も何度も同じ動きを繰り返している。
その様子を見て姫希が吹き出した。
「颯太見てると緊張ほぐれるね。」
奏も笑う。
「そうだな。」
「でも、ライブ始まると一番ビシッとするのが颯太なんだよな。」
達磨は腕を組んで頷く。
「あれは颯太なりの儀式みたいなもんなんじゃね?」
大地は苦笑しながら言った。
「ただの手持ち無沙汰だよ、きっと。」
四人の笑い声が袖に広がる。
その空気のおかげか、張り詰めていた緊張が少しだけ和らいだ。
その時だった。
スタッフがステージ袖へ顔を出す。
「時間です!」
五人の表情が変わる。
笑顔は消え、それぞれが静かに頷く。
誰も言葉は発しない。
全員が同じ気持ちだった。
――行こう。
スポットライトの先へ歩き出す。
観客の歓声が一気に押し寄せる。
五人は定位置についた。
MCはない。
その沈黙を切り裂くように、颯太のギターがうなりを上げた。
鋭く歪んだ一音。
その瞬間、客席から大きな歓声が湧き上がる。
姫希はマイクを高く掲げ、叫んだ。
「姫ラップ!!」
たった一言。
それだけで会場のボルテージは一気に最高潮へ到達した。
ジャンプする観客。
拳を突き上げる観客。
JJのライブが、ついに幕を開けた。
今日の『姫ラップ』は、いつもとは少し違う。
歌詞には、この夏フェスのステージへ立てた喜び。
支えてくれたスタッフへの感謝。
ここまで応援してくれたファンへの感謝。
そのすべてが乗せられていた。
姫希のラップは、力強く、それでいて真っ直ぐに会場へ届いていく。
歓声がさらに大きくなる。
そして、曲が終わる暇すら与えない。
颯太のギターが『Impact』のリフを叩きつけた。
空気が変わる。
重く、鋭く、腹の底まで響く音圧。
スピーカーから放たれた低音が会場全体を震わせた。
さっきまでの明るく楽しい空気は一瞬で消え去る。
押し寄せる最大級の音の波。
奏と颯太のツインギターが鋭く絡み合い、
達磨のベースが土台を揺らし、
大地のドラムが力強く突き進む。
その中心で姫希は、先ほどとは別人のような低く鋭い歌声を響かせる。
わずか二曲。
それだけでJJは観客の心を掴み、このライブの主導権を一気に引き寄せた。




