第32話 明日もここに来て!
夏フェス当日。
広大な会場にはいくつもの特設ステージが設置され、朝からさまざまなバンドがライブを繰り広げていた。どこを歩いても音楽が鳴り響き、観客は目当てのバンドを追いかけるように会場を行き来している。
颯太はメインステージを見上げながら感心したように呟いた。
「やっぱテレビ出るようなバンドは人気が凄いね。」
何千人もの観客が拳を突き上げ、一体となって盛り上がっている。
姫希もその光景を眺めながら頷いた。
「そうだね。ステージも広いし豪華だね。」
「私たちの第四ステージなんて公園かって感じだったし。」
思わず二人で笑ってしまう。
颯太は肩をすくめた。
「まぁ、良いじゃん。」
「大事なのは中身なんだし。」
その言葉に姫希は優しく笑った。
二人は屋台を眺めたり、他のバンドの演奏を少し立ち止まって聴いたりしながら、フェス会場をゆっくり歩いていた。
すると颯太がポケットから小さなお守りを取り出した。
「姫ちゃん、これお守り。」
「明日台風来ないように。」
そう言って差し出したのは交通安全のお守りだった。
姫希は受け取ると、くすっと笑う。
「うん、颯太らしい。」
「ありがと。」
少しお守りを見つめてから、小さく続けた。
「気圧の変化は喘息持ちにはきついから。」
「助かる。」
颯太は照れくさそうに笑うだけだった。
バンドメンバー全員で過ごす時間も好きだった。
それでも、姫希と二人だけで過ごすこの時間は、颯太にとって少しだけ特別な時間だった。
やがて夕方になり、第四ステージから歓声が聞こえ始める。
いよいよflagshipのライブだ。
仲間でもあり、ライバルでもある彼らのステージだけは見逃せない。
二人は少し駆け足で第四ステージへ向かった。
到着すると、すでに奏、達磨、大地が待っていた。
達磨が腕を組みながら笑う。
「おせえ。」
「フェス前日にデートとかうかれてんじゃねえ。」
颯太は慌てて首を振る。
「デートじゃないよ。」
耳まで赤くなっている。
その様子を見た姫希は、いたずらっぽく笑った。
「デートじゃなかったんだ。」
まさか本人からまで言われるとは思わず、颯太はさらに照れてしまう。
奏は苦笑しながらステージへ視線を向けた。
「flagship始まるぞ。」
五人は最前列近くに並び、仲間のライブを見届けた。
ライブは大きな歓声に包まれながら終盤へ進んでいく。
そして最後のMCの前。
一度ステージ袖へ下がったflagshipのメンバーが再び姿を現した。
全員が着ていたのは、JJのTシャツだった。
観客がざわめく。
ギターボーカルはマイクを握り、笑顔で口を開いた。
「明日、同じ会場、同じ時間にJustice Judgmentのライブがあります!」
客席から拍手が起こる。
「彼らはヤベェぞ!」
「見逃したら絶対損する!」
「明日もここに来て!」
「お楽しみに!!」
最後のMC。
普通なら最後の曲を紹介する時間だった。
しかし彼らは、その時間をすべてJustice Judgmentの宣伝に使ってくれた。
ステージを見つめる五人の胸が熱くなる。
誰一人として言葉は発しない。
それでも分かった。
五人全員の熱量が、一気に高まっていく。
明日のライブへ向けて。
もう全員のスイッチは入っていた。




