第30話 参加させてください
ハードなセットリストにも、五人は少しずつ慣れてきていた。
MCを挟みながら激しい曲を立て続けに演奏するスタイルも板につき、ライブを重ねるたびに客席の熱気は増していく。
そんなライブを何度か終えたある日。
機材を片付けている五人のもとへ、一人の男が名刺を手に近づいてきた。
「ライブの盛り上がり、すごいですね。」
そう声を掛けられ、五人は手を止める。
男は笑顔のまま名刺を差し出した。
「どうですか。ウチの企画する夏フェスに出てみませんか?」
あまりにも突然の誘いだった。
その夏フェスは、メジャーからインディーズまで数多くのバンドが出演するイベント。
出演を目標に活動しているバンドも少なくない。
姫希は名刺を見つめたまま、小さく声を漏らした。
「すっ……凄い。」
「オファー来た。」
その言葉に達磨も目を輝かせる。
「マジかー!」
「今回は、いつどこでやるんですか?」
男は答えた。
「来年の夏です。」
「長野の山の中ですね。」
奏は指を折りながら日程を計算する。
「あと半年か。」
そして迷うことなく頭を下げた。
「参加させてください。」
「よろしくお願いします。」
男も笑顔で頷く。
姫希は興奮を隠しきれない。
「外ライブなんて初なんだけど。」
その表情には、不安よりも期待の方が大きく表れていた。
大地は経験者らしく静かに話し始める。
「外は箱と違って音が響きにくいぞ。」
「でも、人数はある意味無限大。」
「開放感もある。」
少し笑って続けた。
「最高だな。」
達磨は気になっていたことを尋ねる。
「第何ステージっすか?」
「二日目の第四ステージですね。」
「一から三は、もうメジャー組に押さえられてます。」
第四ステージ。
決してメインではない。
それでも五人にとっては十分すぎる舞台だった。
達磨はさらに質問を重ねる。
「スポンサーは?」
男は少しだけ笑った。
「まだ内緒ですけど。」
「飲料系が三社。」
「大手居酒屋チェーンが二社。」
「あと、人間科学研究所が今年から入ります。」
姫希は首を傾げる。
「人間科学研究所って響きが、なんか怖いね。」
男は苦笑しながら首を振った。
「大丈夫ですよ。」
「音楽が人に与える影響を観察する程度と聞いてます。」
その説明を聞き、颯太は安心したように笑う。
「そっか。」
「楽しみだね。」
男が帰ると、奏はすぐに気持ちを切り替えた。
「セトリの見直しするぞ。」
ホワイトボードへ向き直る。
「あと、次のライブからは夏フェス意識してやっていこう。」
ライブハウスでの演奏ではなく、半年後の野外ステージを見据えた練習が始まる。
奏は大地へ視線を向けた。
「大地さん。」
「他に何か注意した方が良いことある?」
大地は少し考えてから答える。
「夏の外はかなり体力削られる。」
「トレーニングはしておいた方が良い。」
その言葉を聞くと、姫希はすぐに頷いた。
「ネックは私だよね。」
「今日から走り込みする。」
すると大地は真剣な表情になる。
「姫は限界までトレーニングしそうだから、一人では絶対やらない事。」
思わぬ忠告に姫希は目を丸くした。
大地は続ける。
「無理しそうだからな。」
「誰かと一緒にやれ。」
姫希は素直に頷いた。
「わかった。」
今度は大地が颯太を見る。
「颯太はトレーニングしなさそうだから、たまには走ること。」
その言葉に颯太は苦笑いを浮かべる。
「……見抜かれてる。」
スタジオに笑いが広がった。
大地も笑いながら確認する。
「OK?」
姫希は元気よく返事をした。
「わかった!」
颯太も笑いながら頷く。
「了解!」
夏フェスまで、あと半年。
J Jの伝説が生まれようとしていた。




