第29話 毎回やりたいくらい好きな曲
週末。
いつものスタジオには、メンバー五人の笑い声が響いていた。
それぞれが楽器を準備する中、今日は練習を始める前に、この間のライブについて反省会をすることになっていた。
奏がホワイトボードの前に立つ。
「じゃあ、反省会から。」
全員が頷いた。
少し考えたあと、奏が最初に切り出す。
「MCないとキツい。」
「アンコールに応えられない。」
ライブが終わったあとも鳴り止まなかったアンコール。
その声に応えられずステージを降りたことが、奏の中では引っ掛かっていた。
颯太は首を横に振る。
「俺は一気に行った方が盛り上がると思う。」
「その方がテンションも上がるし。」
ライブ中の高揚感を思い出すように拳を握る。
達磨はニヤニヤしながら口を挟んだ。
「つまり、MCないと颯太は暴走するって事だな。」
「……まぁ、そうとも言う。」
颯太は苦笑いを浮かべる。
大地も静かに頷いた。
「でも勢いは大事だ。」
「止めすぎるとライブの流れも切れる。」
意見は二つに割れた。
すると四人の視線が、自然と姫希へ集まる。
「え?」
突然注目され、姫希は目を丸くした。
「私が決めるの?」
困ったように笑う。
「やだな。」
「話し合い、始めからやり直さない?」
奏は間髪入れず返した。
「それ意味ある?」
一瞬静まり返ったあと、スタジオ中に笑い声が広がった。
笑いが落ち着くと、奏は話を戻す。
「4曲ぶっ通しで激しいやつは姫希が持たない。」
ボーカルの負担を考えた現実的な判断だった。
「まず2曲通してやって、様子見てみよう。」
颯太は少しだけ粘る。
「3……3曲にしない?」
達磨はすぐに首を振った。
「3曲にすると『ONI』をやるタイミングが難しくなるぞ。」
「なしにするか?」
その言葉に颯太は慌てた。
「『ONI』はやりたい。」
「毎回やりたいくらい好きな曲。」
達磨は満足そうに笑う。
「だろ?」
「だからまずは2曲なんだよ。」
「その方がセトリ組みやすくなるだろ。」
颯太は肩を落とし、大げさに返事をした。
「はーい。りょうかーい。」
再び笑いが起こる。
奏はホワイトボードへ向き直り、黒いペンを走らせた。
「次のライブは――」
ホワイトボードに曲名が並んでいく。
『姫ラップ』
『Impact』
MC
『KAMINARI』
MC
『DIVE』
『ONI』
全員がセットリストを見つめる。
奏はペンを置き、振り返った。
「激しい曲、詰め込んでみる。」
「これは挑戦だからな。」
達磨が腕を組む。
「かなりハードだな。」
大地もセットリストを見ながら口を開いた。
「『七転び』は様子を見て『DIVE』と入れ替えても良いかもな。」
姫希も頷く。
「『Justice』も『ONI』との入れ替えだね。」
ライブを重ねながら、その日の状態に合わせて組み替える。
それが今の五人にとって一番現実的だった。
奏は全員を見渡す。
「来週のライブ後、みんな立っていられるか。」
少し笑って続ける。
「それを基準とする。」
「了解。」
四人の声が重なった。
反省会が終わり、ようやく練習が始まる。
そのときだった。
颯太がギターを肩に掛け、何気なく『ONI』のリフを弾き始める。
歪んだギターがスタジオに響く。
何度か繰り返したあと、演奏を止め、大地を見る。
「ここの繋ぎ目に、大地さん。」
「オカズ入れたい。」
大地はリズムを頭の中で組み立てながら、小さく頷いた。
「5曲目か……。」
「考えとくよ。」
颯太は嬉しそうに笑う。
「お願いします。」
新しいライブへ向けて、五人の音は少しずつ形になり始めていた。




