第28話 俺のギターの先生たちだよ
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴る。
「こんちわっす。」
聞き覚えのある声に、颯太が玄関へ向かった。
ドアを開けると、昨日ライブハウスで助けてくれた大地の後輩が立っていた。
「あっ、こんちわっす。昨日はありがとう。」
颯太が頭を下げると、後輩は照れくさそうに笑う。
「いえいえ、どういたしまして。」
そのとき、リビングから姫希が顔を出した。
「おっす。遊びに来た。」
後輩は二人を見比べる。
「今日も姫希さんと一緒なんですね。」
少し間を置いて尋ねた。
「お二人は、そういう関係なんすか?」
颯太はあっさり答える。
「うん、バンド仲間だよ。」
「おいっ。」
すかさず姫希のツッコミが飛ぶ。
そのやり取りに三人は思わず笑い合った。
「上がって。」
颯太に案内され、後輩は部屋へ入る。
部屋を見回した瞬間、思わず足を止めた。
「凄い部屋っすね。壁一面CDじゃないっすか。」
壁という壁に並べられた大量のCD。
ロックだけではない。様々なジャンルの作品がきれいに並んでいる。
颯太は少し照れくさそうに笑った。
「俺のギターの先生たちだよ。」
姫希も苦笑する。
「初めて見たらビックリするよね。この量とジャンル。」
棚を指差しながら数えていく。
「ロック、メタル、ヒップホップ、ジャズ、アイドル、アニメ、演歌、クラシック。」
そして肩をすくめた。
「節操ないね。」
颯太は首を横に振る。
「いやいや、全部必要だったんだよ。」
CD棚を眺めながら満足そうに微笑む。
「これのおかげで世界が広がったんだ。」
その表情を見ていた姫希が、ふと思い出したように後輩へ向き直る。
「それはそうと、お兄さんたちは怖い人たちじゃないの? 大地さんとどんな関係?」
颯太も真剣な顔になる。
「気になって熟睡出来なかった。」
姫希は吹き出した。
「寝れはしたんだね。」
後輩も笑いながら話し始める。
「大地さんには昔、勉強教わってたんです。」
二人は静かに耳を傾けた。
「ドラム始めたてのとき、商店街で生き倒れてて、そこを家の母ちゃんが拾って来たんす。」
「行くとこないとかで、家で住み込みでバイト始めて。」
少し照れながら付け加える。
「あっ、家、焼肉屋です。」
「昼間バイトして、休憩時間に勉強教えてもらって、夜またバイト。」
「店を閉めてからドラム練習して、夜中は翌日の仕込み。」
苦笑いを浮かべる。
「いつ寝てたんすかね。」
颯太は感心したようにうなずいた。
「へぇ、そうなんだ。」
後輩は続ける。
「勉強教えてもらったら成績上がって、教わりたいってやつが増えて。」
「それが今の仲間っす。」
少し懐かしそうな表情になった。
「なんのために勉強するのかを熱く語ってたのが印象的でした。」
姫希が首をかしげる。
「成績のためじゃないの?」
後輩は首を横に振る。
「違うっす。」
「世の中を理解するためです。」
「世界は複雑に見えるっすけど、単純が絡まり合ったものなんです。」
「一つ一つを見方を変えて見たら理解しやすいんです。」
姫希は苦笑する。
「言ってる事がさっぱりだわ。」
後輩は笑った。
「91になる掛け算の話が特に印象的っすね。」
「91?」
颯太が首をかしげる。
「はい。見方を変えれば暗算できるって話っす。」
「何? わからない。」
「91を100-9として見るんです。」
「あとは因数分解して13×7になります。」
颯太は思わず声を上げた。
「因数分解か。懐かしい。」
後輩はうなずく。
「見方を変えれば簡単に理解できる。」
「だから勉強が必要。」
「そう教わりました。」
「大地さんには頭が上がらないっす。」
颯太は納得したように笑う。
「大地さん、教えるの上手いんだね。」
姫希も何度もうなずいた。
「想像出来る。」
後輩は立ち上がる。
「まぁ、お二人が元気そうなんで、俺も安心して帰れます。」
玄関へ向かい、軽く頭を下げた。
「じゃ、お邪魔したっす。」
ドアが閉まり、部屋に静けさが戻る。
颯太は小さく笑った。
「いい人だったね。」
姫希も安心したように息をつく。
「うん。安心した。」
そして、いたずらっぽく笑う。
「今度焼肉食べ行こう。」
颯太も笑い返す。
「いいね。」
姫希はすかさず続けた。
「颯太の奢りで。」
「なんで俺なんだよ!」
二人の笑い声が部屋いっぱいに響いた。




