第3話 あれを超えている
颯太はニヤッと笑い返した。
おもむろにギターを構える。
そして弾き始めた。
指先に迷いはない。
奏は黙って聴く。
イントロが流れた、その瞬間だった。
「待った」
奏が思わず声を上げる。
「今のフレーズ、もう一回」
颯太は何も言わず、もう一度弾く。
同じメロディ。
なのに印象が違う。
ゆっくり歩いていた景色が、一気に颯爽と駆け抜ける景色へと変わっていた。
「もう一度」
今度は奏もギターを構える。
颯太のギターに合わせて弾き始めた。
音が重なる。
「そこ」
颯太が止める。
「ここでこの音欲しい」
奏は首を傾げた。
「これ?」
弾いてみる。
あからさまな不協和音だった。
「いや、そこで合わせる」
颯太も同じタイミングで弾く。
二つの音が重なる。
目が合う。
二人同時に鳥肌が立った。
「……なんだ、これ」
奏が思わずつぶやく。
「良くなった」
「あぁ」
颯太も小さくうなずく。
「祭りの時の、あの感覚に近いな」
奏はすぐに首を振る。
「いや……」
「あれを超えてる」
しばらく沈黙が流れる。
「もう一度。同じとこ」
二人は何度も同じフレーズを繰り返した。
音を重ね。
削り。
また重ねる。
気付けば夕日が部屋を赤く染めていた。
この日、二人は勢いのまま一曲を仕上げてしまった。
ギターを置く。
どちらも大きく息を吐いた。
「次はいつ来れる?」
「土曜日」
「父さんに録音部屋使えるか相談しとく」
「録音できるの?」
颯太の表情が明るくなる。
「すげぇな。楽しみ」
「じゃあ今日は帰る。またな」
「おぅ、またな」
家を出る頃には外は薄暗くなっていた。
二人には、心地よい気だるさだけが残っていた。




