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SEED  作者: 泣きピエロToY
第四章「努努-ゆめゆめ-」
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第26話 完全勝利だな


最後の一音が静かに消えた。


照明に照らされたステージには、まだ熱気が残っている。

五人は誰一人言葉を交わさないまま、ゆっくりとステージを降りた。


息は荒く、全身から汗が滴る。

腕も足も鉛のように重い。


それでも、その表情にはやり切った充実感が浮かんでいた。


控え室の扉が閉まる。

その瞬間、張り詰めていた緊張の糸が一気に切れた。


姫希は数歩歩いたところで膝から崩れ落ち、そのまま床へ寝転がる。


「最高に楽しかったけど……今日はもう無理。」


大の字になり、天井を見つめたまま動かない。

乱れた呼吸だけが、さっきまでの激しいライブを物語っていた。


誰も笑わない。

笑う気力すら残っていない。


全員が、自分たちの持てるすべてをステージへ置いてきたのだから。


本来なら、このあとファッハプの出番だった。

控え室で耳を澄ませば、すぐに次の演奏が始まるはず。


しかし──。


いつまで経ってもギターの音は鳴らない。

ドラムも聞こえない。


会場は不思議な静けさに包まれていた。

やがて、その理由が伝わる。


ファッハプは逃げた。


その一言だけで十分だった。

誰も何も言わない。

言葉にする必要もない。


その代わり、ライブハウス全体を揺らすような歓声が控え室まで響いてきた。


「アンコール!」


「JJ!」


「アンコール!」


「もう一曲!」


壁を震わせるほどの大きな声。

その歓声は一向に途切れる気配がない。


姫希は薄く目を開け、力なく片手を持ち上げる。


「寝かせてくれー。」


その気の抜けた一言に、張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。

奏は苦笑しながら仲間たちを見渡した。


誰も立ち上がる気力は残っていない。


「俺らも逃げるか。」


ニヤッと笑う。


その笑顔につられるように、達磨も大地も颯太も小さく笑った。


大地はすぐに携帯を取り出す。

短く電話をかけると、迷いなく言った。


「車っ! 姫を休ませたいからデカいやつ回して。」


『了解です。』


返事は一瞬だった。

電話を切ると同時に外では男たちが動き始める。

数分もしないうちに、大きな車がライブハウス裏口へ滑り込んできた。


五人はスタッフへ軽く頭を下げ、そのまま車へ乗り込む。


扉が閉まり、車が静かに走り出す。


窓の外からは、まだアンコールの声が聞こえていた。

その歓声を背中に受けながら、JJは静かにライブハウスを後にした。



翌日。


達磨は自宅のソファに深く腰を下ろし、携帯電話を手に取る。

昨夜のライブを語るスレッドを開くと、画面には見慣れた誹謗中傷が並んでいた。


「JJってバンドに演奏時間奪われた。」


「客を買収している疑惑。」


思わず鼻で笑う。

昨日までなら、こうした書き込みだけが目立っていた。


だが今日は違う。


一つひとつの書き込みに、数え切れないほどのリプライが付いている。


「ファッハプが逃げただけ。」


「最高のライブだった。」


「貶める奴は何者?」


「また行きたい。」


「ライブ中、呼吸するの忘れた。」


「あれは伝説になる。」


実際にライブを見た人たちの言葉が、次々と誹謗中傷を飲み込んでいく。


達磨は画面を閉じ、満足そうに息を吐いた。


「完全勝利だな。」


その声に、大地が肩や腕をさすりながら苦笑する。


「体、筋肉痛だよ。」


腕を上げるだけで顔をしかめる。

昨日どれだけ全力で叩いたのか、自分でも笑えてくる。


「あの三人は暴走させたらダメだって分かった。」


達磨は思わず吹き出した。


「颯太のやつ。やるなって言った事、全部やったな。」


目を合わせるな。

煽るな。

余計なことはするな。


注意したことを、颯太は一つ残らず破った。


その結果が、昨日のライブだった。

二人は顔を見合わせる。


思い出すだけで笑いが込み上げてくる。

静かな部屋に、二人の笑い声がいつまでも響いていた。


第四章 「努努-ゆめゆめ-」 完

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