第25話 潰れちまえぇー!!
「鬼姫ラップだぁー!」
姫希の叫びと同時に演奏が始まる。
一曲目は『姫ラップ』。
しかし、客席が知っている『姫ラップ』ではなかった。
普段の歌詞は、自分が歌を歌う意味や覚悟、自分自身の決意をラップに乗せて届ける曲。
だが、この日の歌詞は違う。
大切なものを貶された怒り。
仲間と積み重ねてきた時間。
五人で作り上げてきた音の尊さ。
そのすべてをぶつけるような言葉が、リズムに乗って会場へ叩きつけられる。
感情を隠さない。
飾らない。
姫希は怒りも悔しさも、そのまま歌に変えていた。
そして最後に、腹の底から叫ぶ。
「潰れちまえぇー!!」
その叫びが消える前に、ギターが唸る。
間髪入れず『Impact』へ突入した。
重低音が腹の奥まで突き刺さる。
バスドラムが心臓を叩き、ベースが地面を揺らし、二本のギターが容赦なく音を重ねていく。
まさに、音に潰される。
そんな一曲だった。
颯太の様子が、いつもと違う。
視線はただ一点。
客席でもメンバーでもない、遥か先を見つめるように立ち尽くし、体をほとんど動かさない。
その代わり、指先だけが生き物のように動き続け、新しい音を紡いでいく。
奏はその姿から目を離せなかった。
(俺の知らない颯太だ。)
(あいつは何がしたい。)
(考えろ。)
颯太のフレーズを追い掛ける。
答えを探す。
だが、次の瞬間、奏はふっと笑った。
考えるのをやめた。
理屈じゃない。
今は好きに弾けばいい。
それが一番だ。
そう言わんばかりに、奏のギターも自由に歌い始める。
二本のギターがぶつかる。
競うでもなく、譲るでもない。
互いを信じるように音を重ね、新しい景色を作り上げていく。
その様子を見つめる姫希の頬にも笑みが浮かぶ。
(二人とも笑ってる。)
(最高だぜ。)
歌いながら両腕を左右へ大きく広げ、両手の親指を立てる。
その笑顔が、ステージ全体をさらに熱くした。
達磨と大地は思わず顔を見合わせる。
(コイツらマジでやばい。)
達磨はベースを握り直した。
指先にはもう余計な力が入っている。
「俺は天才ベーシストだ! 意地でもついていく!」
自分に言い聞かせるような叫びだった。
完全に余裕は消えていた。
だが、それでも食らいつく。
それが今の達磨だった。
一息つく間もなく、『DIVE』が始まる。
最前列の客が自然と音に合わせて体を揺らし始める。
一人。
二人。
やがて、その揺れは客席全体へと伝染していく。
拳が上がる。
声が重なる。
会場全体が一つのリズムを刻み始めた。
さらにグルーヴが加速する。
勢いのまま披露されたのは、出来立てほやほやの新曲『KAMINARI』。
誰も知らない曲。
それなのに、一音鳴った瞬間から空気が変わる。
鋭く走るギター。
叩きつけるドラム。
うねるベース。
叫ぶようなボーカル。
会場は歓声とも悲鳴ともつかない声に包まれた。
熱狂は頂点へ達する。
そして、不意にすべての音が止まった。
静寂。
五人はステージの中央で仁王立ちになる。
誰一人として言葉を発しない。
ただ客席を見下ろす。
その姿だけが、すべてを物語っていた。
これがJJだ。
誰も口にはしない。
それでも、会場にいる全員へ確かに伝わっていた。
そして最後の一曲。
『Justice』
激しく燃え上がった熱を包み込むように、バラードが静かに始まる。
五人は最後まで、自分たちの音だけで会場を満たしていった。




