第22話 今、ここで
「一つだけ。みんなに言いたい。雑誌相手にライブすんなよ。」
ステージ袖に集まった五人を見渡しながら、奏は静かに言った。
「見られている」という意識は、演奏を変えてしまう。
だからこそ、相手が雑誌だろうと関係ない。目の前にいる客を楽しませることだけを考えろ――それが奏の言いたいことだった。
「おぅ、いつも以上に客を盛り上げてやんよ。」
いつもの調子で笑いながら親指を立てる達磨。その一言で、少し張り詰めていた空気が和らいだ。
「じゃあ、セトリにないけど気合い入れるために今、ここで『ONI』歌う。アカペラバージョン!」
姫希の提案に誰も反対しない。
五人は自然と円になり、姫希を囲む。
楽器はない。
それでも息を合わせ、声だけで『ONI』を歌い始めた。
狭いステージ袖に重なる歌声。
ライブ前の緊張が、少しずつ熱へと変わっていく。
歌い終えた瞬間、颯太が拳を高く突き上げた。
「行くぞ、鬼ヶ島!」
その掛け声に四人も笑顔で応え、それぞれの持ち場へ向かう。
照明が落ち、会場が暗転する。
ステージへ踏み出した奏の目に飛び込んできたのは、以前よりも確実に増えた観客だった。
何度も見かける顔。
最前列で手を振る常連客。
そして、JJのTシャツを着ている人までいる。
少し前までは想像もしなかった光景だった。
ライブが始まる。
MCでは颯太がマイクを握る。
「今日をみんなの特別な日にしたい。聞いてください。『Impact』」
言葉が終わるのと同時に、大地のシンバルが高らかに鳴り響いた。
一曲目から会場の熱は一気に上がる。
拳が上がり、歓声が飛び交う。
五人もその熱に応えるように全力で音をぶつけ続けた。
ライブは大盛況だった。
終演後の物販にも多くの人が集まり、グッズは次々と手に取られていく。
ファンと短い言葉を交わしながら、五人はようやくロッカールームへ戻った。
そこで待っていたのが雑誌の取材だった。
メンバー紹介から始まり、バンド結成までの経緯、今日のライブについてなど、一つひとつ質問に答えていく。
ライブ中に撮影された写真も見せてもらい、演奏中の自分たちの姿に自然と笑みがこぼれた。
その頃、姫希は喉の手入れを終え、少し遅れてロッカールームへ入ってくる。
それに気付いた颯太が声を掛けた。
「どう?」
「大丈夫。問題ない!」
迷いなく返ってきた言葉に、颯太も安心したように笑う。
二人は軽くハイタッチを交わした。
取材は無事に終わり、最後に五人揃って記念写真を撮影する。
それからしばらくして雑誌が発売されると、その反響は想像以上だった。
取材の依頼が増え、ライブハウスでもJJを目当てに足を運ぶ客が目に見えて増えていく。
人気が少しずつ、本物になり始めていた。
そんなある日の練習。
楽器を置いた奏がメンバーを見渡し、口を開く。
「来週はライブを休みにしようと思う。」
突然の提案に、颯太が首をかしげた。
「なんで?」
「お前、ギター一本しかないだろ。一回しっかりメンテすんの。達磨もそのベース以外見たことないんで。自分の楽器のメンテはしっかりね。」
「へいへい、りょーかい。」
軽く返事をしながらも、達磨は自分のベースへ目を向ける。
奏は四人を見回し、穏やかな口調で続けた。
「ありがたい事に、人気出てきた。これから忙しくなるんだから、その前の小休止だと思って。」
メンバーも納得したように頷く。
そこへ大地が空を思い出したように口を開いた。
「台風来てるし。気圧の変化とかに注意ね。特に姫。」
「うん、わかった。」
姫希は笑顔で頷く。
束の間の休息を前に、それぞれが自分の楽器と体を整える時間が始まろうとしていた。




