第20話 限界まで歌え
五人体制となったJJは、ライブハウスを中心に精力的な活動を続けていた。
週末になればライブを行い、空いた時間はひたすら練習と曲作り。
気付けば、そんな毎日を繰り返して一年が過ぎていた。
放課後、いつものスタジオ。
機材の準備を終えた達磨が、チューニングをしながら二人へ声を掛けた。
「奏と颯太は高三だろ? どうすんだ?」
奏はギターを肩に掛けたまま笑う。
「今さら聞く? これしかないでしょ。」
隣でエクスプローラを抱えた颯太も笑って頷いた。
「そうそう。もうバンド以外考えられないよ。」
それを聞いた姫希が苦笑する。
「練習ばっかで勉強してないよ、この二人。」
ドラムセットの向こうでスティックを回していた大地が肩をすくめた。
「良いんでない? それで。」
笑いが起こる。
奏は譜面を取り出し、床へ広げた。
「だいぶ曲も出来たし、ライブ用セットリスト組み直そうと思う。こんな感じでどう?」
全員が譜面を覗き込む。
姫希は曲順を目で追いながら、小さく眉を寄せた。
「激しいの多いね……」
その表情の変化に最初に気付いたのは颯太だった。
「不安あるの?」
姫希は少しだけ視線を落とす。
「ちょっとね。」
達磨が首を傾げる。
「何? 何? 不安? らしくねぇな。どうした?」
少し間を置いて、姫希は静かに口を開いた。
「今は大丈夫なんだけど、私実は喘息持ちで。」
その言葉に奏の表情が変わる。
「は? 初耳だぞ。良いのか、歌って。」
「うん、高校なってからは発作出てないから。
薬も持ち歩いてるし、喉の手入れもしっかりしてる。」
それでも奏は首を横に振った。
「ならこれ以上、歌わせられないよ。」
姫希は慌てて笑う。
「大丈夫だってば。」
「無茶すんなよ!」
スタジオの空気が少し張り詰める。
そこへ達磨が割って入った。
「はいはい、待て。喉の手入れはしてんだな?」
「うん。」
達磨は迷いなく言った。
「なら限界まで歌え。」
「達磨、何言ってんだ。」
「お前ならどうする?」
「だから歌わせないって。」
達磨は首を振る。
「違う、そうじゃなくて。……大地交代。」
突然話を振られた大地は苦笑しながら口を開いた。
「多分、達磨は――目の前にすごく欲しい音が出せるギターがある。でも、それがすごい脆い。それでもそのギターを弾くかって聞いてるの。」
奏は少し考えたあと、迷いなく答える。
「弾く。脆いなら大事に使うし、メンテ欠かさない。」
大地は静かに頷いた。
「姫の声もそれと同じだよ。」
言葉を継いだのは達磨だった。
「だから歌わせろ。体調管理も含めてやらせろ。姫の声は俺らの武器だぞ。」
奏は黙ったまま姫希を見る。
そして颯太を見る。
颯太は何も言わない。
ただ静かに奏を見返していた。
やがて奏は小さく息を吐き、譜面へ視線を落とす。
諦めたようにセットリストへ赤ペンを走らせた。
「曲間のMCは颯太か達磨が代わりにやれ。それが最低条件。」
誰も反対しなかった。
空気が少し和らいだところで、奏は改めて譜面を持ち上げる。
「次のライブは来週。五曲出来る。新曲を二曲入れたい。颯太、お前なら何を入れる?」
颯太は少し考え、曲順を書き出していく。
「一曲目に新曲の『Impact』。
二曲目に『DIVE』。
三曲目に達磨ボーカルの『七転び』。
四曲目は新曲の『姫ラップ』。
五曲目にバラードの『Justice』かな。」
奏は一つだけ気になった。
「『ONI』はやらないのか。」
「うん。ライブこなして出来るとわかってからやったら良いよ。」
達磨が思わず顔を上げる。
「七転びやるの? マジ?」
遊び半分で奏が作った、達磨をいじるための曲。
しかもベースを弾きながら歌わなければならない。
達磨にとって決して楽な曲ではない。
それでも文句は言わなかった。
姫希が少しでも休める時間になるなら、それでいい。
「七転びの時私暇なんだけど。大地さん、私何したら良い?」
「客を煽るのが一般的かな。姫ラップの準備してても良いし。堂々としてれば良い。」
奏は譜面を閉じ、ギターを構える。
「じゃあ、一曲目から通しでやるぞ。」
メンバー全員が笑って返事をした。
「りょーかい。」
スタジオにカウントが響き、新しいセットリストの練習が始まった。




