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SEED  作者: 泣きピエロToY
第三章「The Beginning」
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第18話 お前の楽器は、その声だろ


「もう一回やろ。」


颯太は興奮を隠しきれず、ギターを抱え直した。


「ツインギターバージョンでさ。」


さっきまでの演奏が頭から離れない。


達磨のベース。


大地のドラム。


あの二人と音を重ねた瞬間の高揚感が、まだ体の中に残っていた。


今すぐもう一度弾きたい。


そんな気持ちが全身から溢れている。


「颯太、ちょっと待って。」


奏が静かに声を掛けた。


颯太は不思議そうな顔で振り返る。


奏は達磨と大地を見つめた。


「二人の事は大体わかったよ。」


少しだけ口元を緩める。


「バンド加入を認める。」


達磨は照れ隠しのように鼻を擦った。


「おぉ、サンキューな。」


だが、すぐに真面目な表情へ戻る。


「ただ、まだ助っ人やってるバンドがある。」


「あっちが終わってから正式に加入させてくれ。」


「中途半端なことだけはしたくねぇ。」


その言葉に奏は小さく頷いた。


この男は口は悪い。


だが、音楽には驚くほど誠実だった。


「わかった。」


「それまでは助っ人加入って事にしておく。」


「助かる。」


達磨は短く答えた。


すると姫希が首を傾げる。


「そっちのバンドはいつ解散するの?」


「させねぇよ、バカ女。」


間髪入れずに返ってきた。


「聞いただけじゃん!」


「お前、俺を何だと思ってんだ。」


「七転び八起きのダルマ。」


「だから違うって!」


スタジオに笑いが広がる。


大地は苦笑いを浮かべながら肩をすくめた。


「口の悪い奴が二人もいると、フォロー役は大変だよな。」


颯太は楽しそうに笑う。


「良いじゃん。」


「遠慮ない感じで。」


そして二人へ向かって頭を下げた。


「大地さん、達磨さん。よろしくお願いします。」


「こちらこそ。」


大地は穏やかに笑う。


達磨は照れくさそうに片手を上げた。


姫希も笑顔になる。


「私は姫ちゃんって呼んで良いよ。」


達磨はニヤリと笑った。


「オタサーの姫か?」


「殴ろうかな。」


姫希は笑顔のまま拳を握る。


「怖ぇ怖ぇ。」


軽口を叩き合える空気が、もうそこにはでき始めていた。


その時だった。


達磨がふと姫希を見る。


「てかさ。」


「なんで姫は曲作りに参加しねぇんだ?」


姫希はきょとんとする。


「私、楽器出来ないもん。」


「邪魔になるじゃん。」


その答えを聞いた達磨は、小さくため息をついた。


「お前の楽器は、その声だろ。」


姫希の表情が止まる。


「ギターはギターらしく弾く。」


「ベースはベースらしく弾く。」


「ドラムはドラムらしく叩く。」


「じゃあボーカルは?」


達磨は真っ直ぐ姫希を見た。


「言われた通りに歌えば良いのか?」


「違うだろ。」


「歌いたいように歌えよ。」


その一言が胸に刺さった。


(声が……私の楽器。)


今まで一度も考えたことがなかった。


歌は楽器じゃない。


私はただ歌う人。


そう思い込んでいた。


奏も颯太も何も言えなかった。


人格。


さっきまでベースやドラムの話だと思っていた。


違う。


歌にも人格がある。


ボーカルにも、自分だけの音がある。


そのことに初めて気付かされた。


静かな時間が流れる。


誰も急かさない。


その沈黙を破ったのは奏だった。


「姫希。」


「……なに?」


「お前の『DIVE』のイメージを教えてくれ。」


姫希は驚いたように奏を見る。


今まで一度も、そんなことを聞かれたことはない。


「漠然とで良い。」


「頼む。」


姫希は視線を落とした。


『DIVE』をどう歌いたいんだろう。


どんな景色を見せたいんだろう。


この曲を通して、何を届けたいんだろう。


初めて、自分の歌と向き合う。


考えれば考えるほど答えは出ない。


それでも、不思議と嫌な時間じゃなかった。


そんな姫希を見て、颯太はニヤニヤが止まらない。


ようやく全員で一つの曲を作れる。


そんな未来が嬉しくて仕方なかった。


達磨はそんな三人を見渡し、ニヤリと笑う。


「やっとだな。」


大地は何も言わず、小さく笑った。

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