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SEED  作者: 泣きピエロToY
第三章「The Beginning」
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第17話 バチバチ


「まずは人格を消したバージョンを聞かせて。」


奏は腕を組んだまま言った。


「基本を見てから、バチバチのも見たい。」


達磨は口元を吊り上げた。


「わかった。まずは『DIVE』だったか。」


隣に立つ大地へ視線を向ける。


「大地、やるぞ。」


「了解。」


二人は迷いなく楽器を構えた。

颯太もギターを握り直す。


少し離れた場所では奏と姫希が二人の様子を見守っていた。


姫希が小さく呟く。


「腕は間違いないはず。あとは人格。」


奏は達磨から目を離さない。


「人格はどうでも良い。」


「真剣さを見たい。」


大地がスティックを軽く合わせる。


「ワン、ツー、スリー、フォー。」


『DIVE』が始まった。


颯太はギターを鳴らす。


達磨のベースは必要以上に前へ出ない。

大地のドラムも無駄な自己主張はない。


ただ、二人とも驚くほど自然だった。


ブレイクの長さ。

リズムの切り替わり。

ギターが前へ出る瞬間。

どれも一切迷いがない。


まるで何度もこの曲を演奏してきたようだった。


颯太も自然と弾きやすい。

リズム隊が土台を作ることで、安心してギターに集中できる。


一曲が終わる。


静まり返ったスタジオで、奏が静かに口を開いた。


「まぁ、普通に上手いかな。」


そう言いながらも、奏の頭には一つの疑問が浮かんでいた。


(初めて合わせた演奏じゃない。)


譜面を追っている演奏ではない。

曲を理解している演奏だった。


達磨はニヤリと笑う。


「次はバチバチで行くぞ。」


「ギターソロの前にベースソロとドラムソロを入れる。八小節短くアレンジしろ。」


突然の変更にも颯太はすぐに頷いた。


「わかった。」


大地がもう一度カウントを始める。


「ワン、ツー、スリー、フォー。」


二度目の『DIVE』。


その一音で、空気が変わった。

イントロから達磨のベースが歌う。


ギターの後ろで支えるだけではない。

前へ押し出し、ときに絡み、ときに挑発する。


「もっと来い。」


そんな声が聞こえてくるようなベースだった。


颯太も応える。

自然と指が動く。

音で会話をしていた。


大地も違う。

ドラムはテンポを刻んでいるだけではなかった。


次の展開へ期待を積み上げる。

一打ごとに熱が増していく。


スタジオ全体が音に引っ張られていくようだった。


(すげぇ……。)


颯太は圧倒される。


二人は好き勝手に弾いているわけじゃない。

『DIVE』という曲を、一番格好良く聴かせようとしている。


そのためにベースが動き、ドラムが支えている。


サビへ入る。


音が一気に弾けた。

曲の勢いが何倍にも膨れ上がる。


ベースソロ直前。

達磨はピックを放り投げた。


乾いたスラップの音がスタジオへ響く。


派手だ。


それなのに、主役を奪わない。

ギターソロを最高に引き立てるためだけに組み立てられたベースソロだった。


続いて大地のドラムソロ。

力強く、激しい。


それでも曲の流れは一度も切れない。


このソロもまた、自分を見せるためではない。

次に来るギターソロへ熱を繋ぐためのソロだった。


その瞬間、颯太の中で何かが弾けた。


考えるより先に指が動く。

予定になかったフレーズ。

初めて弾くアドリブ。


それでも不思議なくらい音が繋がっていく。


達磨が笑う。

大地も笑う。


初めて合わせる者同士とは思えない。


達磨も大地も、颯太のギターを知り尽くっているかのように音を返してくる。


颯太の口元には自然と笑みが浮かぶ。

演奏が楽しい。

そんな感覚は久しぶりだった。


少し離れた場所で見ていた奏は、静かに目を細める。


(……この二人、どれだけ『DIVE』を弾き込んできたんだ?)


ただ腕を見せつけたいだけなら、こんな演奏にはならない。

この曲を理解し、颯太のギターを生かし、もっと良い曲にしようとしている。


その本気が、音の一つひとつから伝わってきた。


だからこそ、颯太はあんなにも楽しそうに弾いている。

だからこそ、演奏が会話になっている。


その光景を見ているうちに、奏の胸の奥が熱くなる。


――弾きたい。


気が付くと、手はギターを握っていた。

自分もあの輪の中に入りたい。


あの三人と音をぶつけ合いたい。

そんな衝動を抑えられなかった。


その様子を見ていた姫希は、小さく微笑む。


(良いな、この雰囲気。)


達磨への警戒心は、もうどこにもなかった。

目の前にいるのは、バンドを壊す人間じゃない。


音楽に誰よりも真剣な、二人のバンドマンだった。

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