第16話 お前にとってベースとドラムって何だ?
Justice Judgmentのライブは、回を重ねるごとに少しずつ客が増えていた。
最初は数えるほどしかいなかった観客も、今ではライブハウスの前列を埋めるようになっている。
それでも奏たちは満足していなかった。
ライブのない週は、いつも通りスタジオへ集まり、新曲や既存曲のアレンジを繰り返す。
この日も『Justice』のアレンジを話し合っていた。
「ここのギター、もう少しシンプルでも良いか。」
奏が譜面へ書き込む。
颯太もギターを鳴らしながら頷いた。
その時だった。
ガチャ。
スタジオのドアが勢いよく開いた。
「Justice Judgmentの人?」
三人が同時に振り返る。
入口には二人の男が立っていた。
一人は堂々と胸を張り、もう一人は穏やかな表情で隣に立っている。
胸を張った男がニヤリと笑った。
「俺は自称天才ベーシスト、達磨」
親指で隣を指す。
「こいつは相棒の大地。ドラマーだ。」
「よろしく。」
大地は軽く頭を下げた。
奏は思わず笑う。
「自称って、自分で言っちゃった。」
すると颯太が笑いながら言う。
「でも奏も天才って思ってるじゃん。」
奏は苦笑いを浮かべた。
「……否定はしない。」
そのやり取りを見ていた姫希が、達磨の顔をじっと見つめる。
「あっ。」
「げっ、七転び八起きのダルマ。」
達磨は眉をひそめた。
「有名になったもんだな。」
姫希は腕を組む。
「有名だよ。」
「ダルマが加入したバンドはことごとく解散するって。」
「で、本人は次のバンドへ行く。」
「倒れても立ち上がるからダルマ。」
達磨は大きくため息をついた。
「その名前で呼ぶな。」
「俺は何もしてねぇよ。」
「勝手に揉め事起こして解散してるだけだ。」
姫希はじっと達磨を見る。
「で、乗り込んできて解散させるの?」
「だから俺のせいで解散してんじゃねぇよ。」
達磨は頭を抱える。
「なんだよ、この女。」
大地が苦笑いを浮かべ、一歩前へ出た。
「ごめんね、達磨、口が悪くて。」
「君たちのライブ、見させてもらったよ。」
「良かった。」
「でも、最高には程遠い。」
奏たちは黙って話を聞く。
「だから、手伝いたいって思ったんだ。」
達磨が腕を組む。
「お前らのバンド、三人だろ。」
「そろそろリズム隊を入れた方が良いぞ。」
「だから来てやった。」
颯太が首を傾げる。
「なんで俺たちがここにいるって知ってるの?」
達磨は鼻で笑った。
「助っ人バンドマンの情報網、舐めんなよ。」
奏は達磨を真っ直ぐ見つめる。
「入りたいなら弾いてみてよ。」
「おぉ、強気だな。」
達磨は面白そうに笑った。
「弾くのはいいけど、お前らの曲、どっちが書いてる?」
奏と颯太へ視線を向ける。
奏が答えた。
「俺だけど。」
「やっぱりな。」
達磨は納得したように頷く。
「ギタリストが作る曲って感じがしてた。」
少し間を置き、奏へ問い掛ける。
「お前にとって、ベースとドラムって何だ?」
奏は眉をひそめる。
「何って……何?」
「鈍いな。」
達磨は肩をすくめた。
「俺らは、お前にとってただのメトロノームか?」
「リズムだけ刻んで、ギターの邪魔をしなきゃいい存在なのかって聞いてる。」
颯太は首を傾げた。
「意味わからない。わかるように言ってよ。」
大地が穏やかに説明する。
「ベースにもドラムにも人格があるんだ。」
「だから聞きたいのは、人格を消して曲を支えるリズム隊が欲しいのか。」
「それとも、お互いにぶつかり合って音を作るセッションがしたいのか。」
「その違いだよ。」
奏は少し考え込んだあと、ゆっくり口を開く。
「まずは人格を消したバージョンを聞かせて。」
「基本を見てから、バチバチのも見たい。」




