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SEED  作者: 泣きピエロToY
第三章「The Beginning」
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第15話 二人がいたから


初ライブ当日。

ライブハウスの楽屋には、独特の熱気が漂っていた。


壁の向こうからは、前の出演バンドの演奏が微かに聞こえてくる。

客席の歓声が響くたびに、胸の鼓動も少しずつ速くなっていく。


そんな中、奏は折り畳まれたセットリストを手に、曲順や立ち位置を静かに確認していた。


表情にも無駄な力は入っていない。

姫希は小さく息を吸い、発声練習を繰り返している。


喉の調子を確かめながら、時折リズムを取るように体を揺らしていた。


そして、その二人の後ろでは――

颯太が落ち着きなく歩き回っていた。


一度立ち止まって靴を揃える。

気になってギターをクロスで磨く。


「よし。」


と呟いたかと思えば、また部屋の中を歩き始める。

その様子を見た奏と姫希は、思わず顔を見合わせた。


奏が呆れたように口を開く。


「落ち着け。」


「いつもと変わらず楽しもう。」


姫希も笑顔で続ける。


颯太は照れ笑いを浮かべながら頭をかいた。


「わかってるけど、ワクワクが止まらない。」


奏は肩をすくめる。


「中二の時の夏祭りのライブと変わらないだろ。」


颯太は勢いよく首を横に振った。


「全然違うよ。」


「ライブハウスデビューだぞ、俺。」


奏は吹き出しそうになる。


(コイツ、おもしれぇ。絶対ステージで暴走する。)


そう思いながらも、穏やかな声で言った。


「安心しろ。」


「俺らがいる。」


その一言に、颯太の肩から少しだけ力が抜けた。

姫希も親指を立てる。


「そうそう。」


「超気持ち良いから。」


「そうだ。」


姫希は何かを思いついたように手を叩いた。


「手のひらに鬼って三回書いて飲み込んだら『ONI』を最高に弾けるんだよ。」


「やってみて。」


「マジ?」


颯太は何の迷いもなく右手の人差し指を左手のひらへ走らせる。


一文字。


二文字。


三文字。


その様子を見ていた奏は思わず噴き出した。


「漢字で書けよ。」


「え?」


颯太はきょとんとする。

奏は笑いを堪えながら言った。


「O、N、Iって書いてどうすんの。」


数秒の沈黙。


「あっ……。」


姫希が苦笑いを浮かべる。


「説明足りなかった。」


颯太は自分の手のひらを見つめる。


O、N、I。


「……恥ずかしい。」


三人は同時に吹き出した。


笑い声が楽屋いっぱいに広がる。


そのタイミングでスタッフが楽屋へ顔を出した。


「Justice Judgmentさん、お願いします。」


空気が変わる。

奏は、二人を見る。

口元には不敵な笑み。


「『DIVE』をぶっ込むぞ!」


「よっしゃ!」


「うん!」


三人は勢いよく楽屋を飛び出した。



ライブが終わった。

汗だくのまま楽屋へ戻ると、三人はほぼ同時に椅子へ腰を下ろした。


まだ心臓が激しく鼓動している。

耳の奥には歓声が残っていた。

颯太は天井を見上げ、大きく息を吐く。


「初めての初ライブ、最高だった。」


奏はすぐに突っ込む。


「初めてだから初ライブな。」


姫希も笑いながら続けた。


「腹痛が痛い、みたいな感じ。」


楽屋に笑い声が響く。

しばらく笑ったあと、奏は颯太へ視線を向けた。


「『ONI』。」


「暴走しかけただろ。」


颯太は苦笑いを浮かべる。


「バレた?」


「良く堪えた。」


颯太はゆっくり頷いた。


「あの瞬間、一瞬だけ頭が真っ白になった。」


演奏中の光景が頭をよぎる。


走りそうになった左手。

焦る心。


その時、横を見ると奏がいた。

前を見ると姫希が歌っていた。


「でも二人がいたから。」


「ぶち壊したくなかった。」


奏は静かに頷く。


「それでいい。」


姫希は満面の笑みを浮かべ、勢いよく親指を立てた。


「颯太、最高だぜ!」


その言葉に颯太は照れくさそうに笑う。

ライブの興奮はまだ冷めない。

だが三人とも同じことを思っていた。


また、このステージに立ちたい。


その日を境に、Justice Judgmentは隔週でライブハウスに立つようになった。

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