第14話 姫希には内緒な
ライブまで、あと三日。
昼休み。
教室の後ろでは、いつものように奏と颯太がギターを手にしていた。
昼食を終えると、二人で音を合わせる。
何曲か弾き終えたところで、颯太がギターを抱え直す。
「なぁ、奏。」
「ん?」
「ちょっと聴いて欲しいフレーズがある。」
奏は頷き、ギターから手を離した。
「いいぞ。」
颯太は小さく息を吸い込む。
そして、ゆっくりとイントロを弾き始めた。
奏が作った曲ではない。
続いて短いギターソロ。
勢いのある、颯太らしいフレーズだった。
だが、演奏はそこで止まる。
「……以上。」
奏は腕を組んだ。
「まだ断片だな。」
「うん。」
颯太は照れくさそうに笑う。
「これ、曲に出来ない?」
奏は驚いた表情を浮かべた。
「いきなりだな。どうした?」
颯太は頭をかく。
「作曲なんて初めてじゃない?」
「そうなんだけどさ。」
視線を落とす。
「作りきれなかったんだ。」
「タイトルもイメージもある。」
「でも、完成しない。」
そして真っ直ぐ奏を見た。
「力、貸してくれ。」
奏は考えてから口を開く。
「タイトルは?」
「Spicy Girl。」
その名前を聞いて、奏は小さく笑った。
「姫希だな?」
「うん。」
颯太も笑顔になる。
「姫ちゃんが加入してから、バンドが活性化してる。毎日がすごく刺激的なんだ。」
「それに姫ちゃん、キャラ強いから。」
奏はニヤリと笑う。
「好きなのか?」
「ん?」
颯太は一瞬きょとんとしたあと、首を横に振った。
「あぁ、そういうんじゃない。」
「それは安心して。」
笑って続ける。
「楽しくて、つい。」
奏は頷いた。
「了解。」
「ライブには間に合わないな。」
「うん。」
奏はもう一度、さっきのフレーズを頭の中で反芻する。
(颯太の色を残したまま、完璧に仕上げるか。難しいな。こいつ、自分のレベルわかってんのか?)
「俺はいつも一から曲を作ってる。」
「でも、これは颯太の曲だ。」
奏は真っ直ぐ颯太を見た。
「初めて作ろうとした曲なんだろ?」
「うん。」
「だったら、中途半端には仕上げたくない。」
颯太の表情が緩む。
「時間はかかるかもしれない。でも、ちゃんと形にしよう。」
「ありがとう。」
奏はギターを膝に置いたまま言った。
「完成するまで姫希には内緒な。」
「了解。」
颯太は笑って頷く。
少しの沈黙が流れる。
奏が思い出したように口を開いた。
「でもさ。」
「ん?」
「Spicy Girlで良いのか?」
「え?」
奏は悪戯っぽく笑う。
「Poison Girlにしなくて。」
一瞬、颯太は固まる。
次の瞬間、勢いよく首を横に振った。
「キレられるよ。マジで。」
その慌てぶりに奏は吹き出した。
颯太もつられて笑う。
昼休みの終わりを告げるチャイムが校内に響く。
二人はギターをケースへしまい、授業の準備を始めた。




