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SEED  作者: 泣きピエロToY
第二章「flower」
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第11話 今、歌いたいんだよ


翌週、土曜日。

朝から雨が降り続いていた。


スタジオの外では、屋根を叩く雨音が絶え間なく響いている。


アスファルトは雨に濡れて黒く光り、通りを行き交う人影もまばらだった。


普段なら聞こえてくる車の走行音さえ雨音にかき消され、街全体が静けさに包まれている。


部屋の中では、奏がアンプの音を確認し、颯太がギターのチューニングを終えたところだった。


颯太

「来るかな? 姫希さん」


奏

「来ないだろ」


窓の外へ目を向ける。


奏

「こんな天気じゃな」


颯太はギターを肩に掛ける。


颯太

「今日は『DIVE』からやろうぜ」


ピックを軽く回しながら笑った。


颯太

「なんか弾きたいんだよね」


少し照れくさそうに続ける。


颯太

「前よりパワーアップできそう」


奏はアンプのスイッチを入れながら頷く。


奏

「颯太、上手くなったよな」


颯太は苦笑する。


颯太

「上から目線やめて。凹む」


奏は首を横に振った。


奏

「そういう意味じゃない」


ギターを手に取り、真っ直ぐ颯太を見る。


奏

「前から上手かったけど、安心感が違うってこと」


その言葉に、颯太は少し驚いたような顔をした。


颯太

「初めて褒められたかも」


奏

「そうか?」


その時だった。


ガチャ。


スタジオの扉が開く。

二人が同時に振り返る。


入口には、濡れた帽子を脱ぎながら立つ少女がいた。肩や袖口には細かな雨粒が残り、歩いてきた外の冷たい空気まで一緒に入り込んでくる。


姫希

「姫ちゃん登場」


奏は目を丸くする。


奏

「マジ?」


颯太は笑顔で手を振った。


颯太

「ようこそ」


姫希は部屋を見回し、小さく笑った。


姫希

「中坊の練習、見に来たよ」


奏は苦笑する。


奏

「俺ら、高二」


姫希の動きが止まる。


姫希

「え?」


少し間を置いて目を丸くした。


姫希

「マジ?」


奏と颯太を見比べる。


姫希

「童顔だから、てっきり中学生かと思ってた……」


颯太は苦笑いする。


颯太

「とりあえず聞いていってよ」


姫希は壁にもたれ、腕を組んだ。


姫希

「そのつもり」


少し笑って続ける。


姫希

「まだ参加するか決めてないし」


視線を二人へ向ける。


姫希

「最初は子守のつもりで来たんだけど……」


肩をすくめる。


姫希

「まさか先輩だったとはね」


奏はギターを肩に掛けた。


奏

「年なんてどうでもいい」


アンプの前へ立ち、颯太を見る。


奏

「颯太、行くぞ」


颯太

「了解!」


ピックを構える。


静かなスタジオに、『DIVE』のイントロが鳴り響いた。


二本のギターが重なり合い、雨音に負けないほど力強い音が部屋を満たしていく。息の合った演奏は迷いがなく、何度も繰り返し合わせてきたことが伝わってくる。


姫希は腕を組んだまま聴いていた。

最初は軽い気持ちだった。

練習を少し見て、適当に帰るつもりだった。


だが、一音、また一音と演奏が重なるたび、その表情から余裕が消えていく。


視線は自然と二人へ引き寄せられ、腕を組んだまま微動だにしない。


『DIVE』の最後の音が静かに消える。


スタジオに短い静寂が訪れた。


姫希は呆然と二人を見つめている。

やがて我に返ったように口を開いた。


姫希

「あんたたち、何者?」


颯太は照れくさそうに頭をかいた。


姫希

「めっちゃ上手いじゃん」


少し興奮した様子で颯太を見る。


姫希

「今の曲、歌詞ある?」


颯太は譜面の間から一枚の紙を取り出した。


颯太

「とりあえず作ってきた」


姫希は紙を受け取り、目を通す。

数秒後、小さく吹き出した。


姫希

「だせぇ」


颯太の肩が落ちる。

だが、姫希は笑みを浮かべたまま続けた。


姫希

「でも、それが良い」


歌詞から目を離さずに言う。


姫希

「待って」


姫希は一行ずつ目で追いながら、小さく口を動かし始める。


姫希

「覚えるから」


奏が腕を組む。


奏

「参加したいの?」


姫希は歌詞を目で追ったまま答えない。


奏は続ける。


奏

「俺らは、まだ参加を認めてないよ」


少し間を置く。


奏

「それに、あのバンドはどうした?」


歌詞を見つめていた姫希の手が止まる。


姫希

「参加はどうでもいい」


顔を上げる。

その瞳には、さっきまでの見学気分はもう残っていなかった。


姫希

「今、歌いたいんだよ」


颯太は何も言わず、小さく頷いた。

ギターを構え直す。


指先が弦をなぞり、『DIVE』のイントロがもう一度静かに鳴り始めた。

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