Ⅰ
私が気にするのは、なんの変哲もなさそうな壁だ。石壁の隙間。木板のうろ穴。コンクリートになぜかぼこっと開いている穴。それを埋めたらしい、真新しい色のコンクリートが詰め込まれた壁。坂にある家々の、城壁めいた基礎に生じる暗い異次元洞窟めいたそれ。
それがあまりにもたくさん身近にあるので、私は娘から手を放せない。
ほら、あそこにも。
ああ、こんな近くに。
2006年 八月 コミケで無料配布したもの
ピクシブにも掲載
私はまだ幼い娘の手を引いていた。
小学校に上がるのはこの春から。まだ寒く雪も降る新春の時期からランドセルを眺めたり、背負ったり、中に人形や筆箱やお菓子を詰め込んではにこにこと何か楽しいことを想像していた。
私は外へ出る時は必ず娘の手を握って歩く。
歩き始めた頃からこうしている。
外は危険がたくさんある。
怖いのは車でも人でもない。車は存在感があるし、おかしな奴は見る限りおかしいのだから。
私が気にするのは、なんの変哲もなさそうな壁だ。石壁の隙間。木板のうろ穴。コンクリートになぜかぼこっと開いている穴。それを埋めたらしい、真新しい色のコンクリートが詰め込まれた壁。坂にある家々の、城壁めいた基礎に生じる暗い異次元洞窟めいたそれ。
それがあまりにもたくさん身近にあるので、私は娘から手を放せない。
ほら、あそこにも。
ああ、こんな近くに。




