〇月2日2
――ついに語られる、あの事件。
俺はわずかな緊張を覚えながら、メモ用の手帳を手に取り、耳を澄ませて岸亜の言葉を待った。
「……それじゃあ話すぞ」
岸亜は一度視線を落とし、静かに語り始める。
「始まりは、去年〇年〇〇月だ。
とある人物――仮に〇〇〇病院としよう――そこに戸西は“記憶喪失”として入院した」
ペン先が紙をなぞる音だけが、周囲に響く。
「そこから数か月後、とある事件が起きた。
それが“怪異物事件”だ」
△月△日。
その日は、戸西にとっても病院にとっても、いつも通りの一日だったらしい。
「その日、謎の集団が戸西に面会しようと現れた。
全員フードやお面を被り、顔は完全に隠していたそうだ」
嫌な想像が頭をよぎる。
「そいつらはな、“戸西の関係者だから引き取る”と病院に言ったらしい。
だが、どう見ても怪しい。病院側は警察を呼ぶと言って止めようとした」
そこで、事態は一変する。
「……集団は、無理やり戸西を連れ出そうとした。
辺りは一気にパニックだ。警察が到着した時には、すでに誘拐は終わっていた」
俺は思わずペンを握りしめた。
「だが、問題はそこじゃない」
岸亜の声が低くなる。
「警察が病院に入った時、通報した人間を含めて……
**その病院にいた人間が、誰一人いなかった**」
背筋が冷える。
「もちろん、戸西もだ。
監視カメラ、聞き込み、あらゆる手段を使ったが……誰一人見つからなかった」
俺は思わず息を呑む。
「結局、手に入った情報は今話した内容だけ。
捜査は進展せず、最終的には“集団幻覚”として処理された」
岸亜は歯噛みするように言った。
「……だが俺は納得できなかった。
警察にも、犯人にも、全部に腹が立ってな」
がむしゃらに調べた末、岸亜は“何か”を掴んだらしい。
「だが、その翌日だ。
俺は……ボロボロの状態で自宅にたどり着いた」
その時、岸亜はうなされていたという。
「“どうして避けられる……”ってな」
苦笑混じりに、肩をすくめる。
「まぁ、その後も色々あって……
拳銃の紛失だの何だので、このざまだ」
長い沈黙が落ちた。
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「……そうですか」
思わず本音が口から出た。
「とりあえず……長かったです」
言ってからしまった、と思い、岸亜を見る。
岸亜は苦笑し、
「すまねぇな……」
と、少しだけ寂しそうに言った。
だが、頭の中は疑問で埋め尽くされていた。
(謎の組織と戸西の関係は?
誘拐されたはずの戸西が、再び記憶を失って現れた理由は?
……戸西は、一体何者なんだ)
その後、岸亜と情報のすり合わせを終えた頃には、すっかり日が落ちていた。
「それでは、岸亜さん」
そう言って別れ、家へ帰る。
念のため戸西に電話をかけたが、やはり繋がらない。
俺は明日、直接戸西の家を訪ねることを決めた。
最後に世良へそのことを伝え、俺は床に就いた。




