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ならば、この心からの渇望は何だったのだろう。
『こんな世界は嫌だ』と。『死んでいるなんて認めたくない』と叫んだ、自分が『心』だと思っていたもの。
それも全てプログラムだったというのだろうか。人間になればすべてが終わって、この街から出ていけると考えていた自分は、一体何だったのだろうか。
「人間になれても、この街からは出ていけないよ。人間でも生屍でも、プレイヤーということに変わりはないんだから」
皇によって部屋に案内された疾太は、ベッドの横に置かれた椅子に腰かけたまま、一晩を過ごした。
そんな疾太の元を祥来が訪れたのは、モーニングが終わってランチタイムに突入する前のわずかなタイミングだった。
「そのピアスには、小型の機材が埋め込まれていてね。皇からみぃくんへ渡すようにって言われていたんだ。通信器具としての役割も兼ねているから、『-B/M』のメンバーはみんな付けているんだよ」
「……祥来さん。僕の耳って」
祥来の口調は、常に輪をかけて柔らかい。気遣われているということが、その響きだけで分かる。
それを理解していながらあえて祥来を視界から締め出した状態で、疾太はあの時口にできなかった問いを今更ながらに口にする。
「最初から、ピアスの穴、空いてたんですか?」
「空いていたよ」
それを理解した上でなのか。それとも本当に気付いていないのか。
祥来は変わることなく穏やかな口調のまま、すんなりと疾太の問いに答えた。
「まるで狙い澄ましたかのように。まるでそこに機材をはめろと言わんばかりに」
その言葉に、疾太は返事をすることができなかった。
自分の容姿を把握できていなかったのは、疾太自身が設定を理解できていなかったためなのか。それとも曖昧だった設定が、周囲からの期待を受けて固まったからなのか。
そんなことばかりが、頭の中で回り続けている。
「みぃくん。みぃくんの中で『人間』って、どんな定義なのかな?」
それでも、祥来は語りかけることをやめない。
祥来には疾太の内心なんて、手に取るように見えているはずなのに。
「みぃくんは今、結の生屍であるわけだけど、それはみぃくんとしては『生きていない』ことになるのかな?」
『これは僕の勝手な感想だけどね、みぃくん。君はまだ、歩き出してさえいないんだよ』と、祥来は一方的に言葉を続けた。
祥来の言葉は、穏やかなのに暴力的だ。疾太はとうの昔に思考を放棄しているのに、祥来の声はそんな状態の疾太の中にも染み込んで、一方的に疾太の中に提言を植え付けていく。
「歩みを止めているわけじゃなくてね。……君の今までの足跡が、僕には見えない」
『少し、考えてみてね』と残して、祥来は部屋から姿を消した。
『-B/M』のリーダーは、優しさと意地悪を等分に混ぜた静寂の中に、疾太を置き去りにしていった。




