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泡沫のアノマリー  作者: 柚木 桜舞
8/16

Stellar

「あの子、怪我をしてる……どうして?」

 

「七歳の子どもの供物が無かったからだね。彼女はすでに四季先生や僕らをさっきのテロリスト達から守るために力を使い果たしたんだ」

 

 何で七歳の子が選ばれるのかは想像がつく。”七つまでは神のうち”が元になっているのだろう。


ミニュイさんが浮遊しながら笑顔でこちらを見ている。

 

「さすがは四季先生、ご名答だ。脳が発達すれば人は自我が強くなって神に近かった子どもたちも神とは縁が遠くなる。その前に供物として取り込んで届けているんだ。ポストのような役割もしているんだ監視者は」


 傷だらけになってまで私たちを守るなんて、どうしてでも彼女を解放してあげたい。


「あの、アイルを助けることって出来ないんですか?」

 

「うーん、可能性はあるよ?これには命の危険が伴うし、四季先生とクォーレの捻じ曲げた結末を告白する必要がある。それを認めることでクォーレは監視者の役割から解放される」


 私はどうなってもいい。彼女が死してなお苦しみ続ける必要があるとは思えない。

 

監視者クォーレの塔へ近づくと直ぐに入口が開いた。

 

「──それで、彼女が救われるなら行かない理由がありませんので」


「ああ、ではすぐに向かおうか」

 

 黒の喪服に身を包み、塔の内部へ向かう。深く息を吸い込み、肺に酸素を取り込む。感情的になって泣いてしまわないようにと心を落ち着かせた。


「ねぇ、雰囲気変わるって言われない?」


急にシオンさんに声をかけられた。


「会う人全員に言われますね。そんなにおかしいでしょうか」


「いいや、誰にだって秘密の一つや二つあるんじゃない?」


ミニュイくんの広い考え方には目を見張るものがある。それでいてくれると自分もなんだか安心した。


「ええ、きっとそうに違いないですね」

 

 目の前に現れたのは上のみの行先を示すエレベーター。ボタンを恐る恐る押すと、エレベーターが重々しい音をたてながら降りてきた。私たちはすぐさまそれに乗りこむ。


 真面目な表情で端末を見るミニュイさん。ここまでの案内をしてくれてとても頼りになる。その一方で、遠足気分で久しぶりに外に出れたことが嬉しいシオンさんは目をキラキラとさせていた。

 

「ふぁ〜!内装といい、テレビの電波塔みたいな観光地感があるね!あ、めっちゃ長い滑り台とかついてないかなぁ……コホン。上へ参りま──」


「エレベーターボーイなんて今の時代はあんまり伝わらないぞ、シオン」


 見た目と中身が正反対の親子のような二人を見ていると段々と自分でもわかるほど緊張していたが、少し落ち着いてきた。

 

「え、もしかして行先ボタンを押してくれる人ってもう居ないの!?」


「乗り込み先と到着先に人がいて扉は開けてくれる場合はありますけど。一緒に乗る人がいたのですか?」


 話しているうちに私たちの乗っていたエレベーターは足元がすくむような高さの展望デッキまで到着した。

 

 教会の構造をした場所がそこにはあった。そこからまだ上に続く石造りの階段は風化して整備されておらず、今にも崩れ落ちそうだ。ここから足を一歩踏み外したものなら、その時はきっと助からない。階段を一歩上がる度に空気は薄くなって呼吸が整わなくなってきている。

 

「……はァ、ゲームでしかこんな場所見たことないっ……」


「少しでも先生の足場残しとくね。俺が階段を登ったら重さで崩れちゃうと思うし」


「し、失礼に当たるとは思うんですけど総重量がそんなにあるんですか〜!?」


「いやん、先生ったら〜………そんなことあるから空を飛ぶことにするよ」

「はぁ。かわいこぶってんじゃないよ、シオン?」

 

 石造りの柱を触るとそこからあたたかな温度と鼓動を感じた。まるで建物自体が生きているかのようだ。そこからはさらに上に伸びる別棟が見える。カザリさんは私の前で魔法陣を書いてくれていて、ミニュイさんはタブレット端末でシオンさんの演算装置の発動を準備をしてくれている。


 私の記憶が映像になって塔の内部空間に映し出される。頭の中が可視化されていくため隠し事は出来ないという訳だ。


「さあ、久渚 四季の懺悔を始めるとしましょう。貴方はアイル=クオーレ。私が話すのは気がつくと国の上空を覆う”オブジェ”になった一人の友達の話です」


 

その子は所謂(いわゆる)、クラスの人気者。誰からも好かれるような人当たりの良い子だった。


「そう……私とは似ても似つかない存在です。出会ったきっかけ、細かいことはもう、忘れてしまいました。学生特有の”二人組を組む”だったかな。正反対の性格の私たちは誰からも選ばれず余ってしまったのです」


 仕方なくペアを組むことになった。という初めはとても残念な出会い方だった。


「よろしくね、四季」

「はぁ、どうも」


 最初から下の名前で呼び捨てにする人だったのをよく覚えている。”ボク”には苦手な距離感の人だった。


「えっと、ボクとは当時の私の本当の一人称であり、久渚 四季のことを指します」


 ペアを組んだことがきっかけでアイルと話すことが増えました。


「誰からもさー好かれたいんだ、私」


 お弁当の蒸しパンを片手にそう話すアイルがボクにはよく分からなかった。

 

「誰からも?ボクは誰も友達だと思ったことがないから。そういうのはよく分からない」


「ねえ、四季?そういうネガティブなこと言うとせっかく来てくれた友達もビックリして離れていくよ?」

 

「うん、そうかもしれないね。ボクは君の広すぎる心の持ちようがうらやましいかな」

 

「四季もいつか信じられる友達、きっとできるよ」

 

「いや、別にいい。学校には勉強に来てるだけだからそういうのは必要ない」

 

「そっか、それも四季らしくていいかもしれないね。でも、私はこれからもせっかくなら四季と友達でいたいかな」


 アイルは誰にだって優しい。こんなに性格が暗いボクにだって笑顔で話を聞いてくれるのだ。


 ある朝、アイルのいる教室に向かおうとすると、こんな話が聞こえてきてしまった。


「アイルちゃんって最近調子乗ってるし腹立つからみんなで無視しよう」


「わかる〜。誰にだっていい子のフリしてるもんね。あ、そうだ。持ち物も捨てとこうよ。あの子どんな反応するかな?」


 実にくだらない、子どもの一時の過ち。なんて稚拙な考えなのか。

 

「一部始終をボクはただ見ていることしか出来なかった!そんなん当たり前だろ、別に友達でも……ないんだからさぁ、あっちにとってのボクなんて!」

 

 その日は学校を早退した。あの出来事がフラッシュバックして体が凍えるように冷たくなり、自宅で倒れた。


「このイジメを受けたのがボクだったら。この後どうなっても良かったのに」


どうしてあんなことになってしまったんだろう─

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