希望的観測第二都市
双六をしていると転がしていたサイコロが割り出した確率で、盤上の駒が振り出しに戻ってしまった。なんて事は無いだろうか。
さすがに”双六本体を壊してしまった”はそうそう無いと思いたいのだが。
ああ、それならば最初から盤上も駒もサイコロも全て調整しておけばいいんだ。そうすれば振り出しに戻る事なく確実にゴールに辿り着ける。
そう考えて神は自身の身体の上に国をつくり、その上に人間を作り出しました。人間たちの生き死にも決めて、タイムリミットと死因を先に知らせておく事で運命を何とかして捻じ曲げようとする人間たちを見るのを楽しみました。
夜の星の子より。
「先生って他の国から来たんだっけ。白の国にどうやってやってきたか覚えてる?」
シオンさんの突然の話題にそういえばと思い返す。
「ええ、確か筆記試験と面接をして入国許可を得ました」
ここ白の国は医療の先進国だ。一般的に訪れていいのは病気や怪我の治療の際のみ。それ以外の入国基準が大変厳しい国だ。理由はまあ、詳しくは知らない。
「シオンさんのような聖職者?は各地域の教会に配属されるであってますか」
「んー、俺は産まれた時からここに居るし。何なら戸籍もめちゃくちゃだからな〜。一応この教会の聖職者だから入国を許可してもらってるんだろうね」
「意外と入国の基準って緩いんでしょうか……?」
「まあ、教会に関わるのが面倒で見逃してもらってるのかもね」
「はあ……なるほど」
私の中でずっと引っかかっていることがある。
「でも、どうして……あの時に死ぬのが自分じゃなかったんだろう」
死ぬ直前に人が纏う死のオーラがはっきりと見えるのがとても怖い。でも自身の死を恐れることはない。その時は必ずやってくるし、自分の死がまだ見えたことが無いから。
「そういう調整だっただけだよ。あの保育士たちは責務を全うして人生を終えたんだ」
「調整……え?なんですか突然」
「今回亡くなったのは産まれがこの国の人。先生にはこれがどう言う意味かわかる?」
「出身者を狙った……とか?」
「まあ、それも正解の一つなんだけどね。白の国で産まれた人は自分の死までのタイムリミットと原因を知っているって言ったら?」
ええ、どういう原理で?
「その因果を捻じ曲げるか、素直に従うかの二択をしますよね」
「そう、それが俺と先生の同僚、あとは子どもたちだ。簡単に言うと外から来た先生たちは生と死をデザインされている人達の因果を捻じ曲げかねない要因のひとつって訳。だから監視されているんだよ」
監視されている。でも、一体何から?
「さっき少女の形をしたオブジェを見たでしょ、あれが監視者だよ。あれは数多くいる監視者の一人にすぎない」
「アイルのこと?生きていた人がどうして監視者に……二年前までは一緒に居たのに」
「アイル……?監視者にもデザインのモデルが居たのか。あれはクオーレとも呼ばれてるけど。先生の知っている人なのかな、監視者には強い悪意を向けたり、死の結末を引き伸ばした人間をあんな風に一掃するシステムが施されているんだ」
「因果を捻じ曲げても結局は一掃されちゃうんですか!?」
「まあ、基本的には死はどうすることもできないかな。覆そうものならそれは禁忌に触れるも同然だ。白の国の産まれの人も生まれ落ちてからの経過年数が経てば経つほど、自分の死因もタイムリミットも忘れてる人が大半なんだ」
「知らない方が幸せなこともある……」
「まあ、そういうことだよね。監視者も年齢と共に視えなくなるし、最初から死因とタイムリミットを知らされているという違和感にさえも慣れてしまう」
そう言って透過結界を使って呪文を唱えたシオンと四季の頭上から視える監視者は──出立式の時に見たアイルの形をしている。だが、
「え……ンもが!?」
「もし正体が分かってもその名をあまり何回も口にしてはならないよ先生──」
シオンは片方で私の口元を押さえ、もう片方は人差し指を立てて自身の口元に当てる。
その少女のオブジェは前回見た時から姿が変わっていた。そう、傷だらけだったのだ。




