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泡沫のアノマリー  作者: 柚木 桜舞
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護ったもの


「ここは何のために機能している施設なのか、結果から言うなら──神への供物(くもつ)を育てている」


 施設長が話すあの一言で私たちが悪事に加担(かたん)していたのは確証となった。


 カザリさんが言うには子どもたちの戸籍は不明確で、私たちが手元に置いている調査表はダミーなのだとか。なぜそれを誰も疑問視しなかったのか、……誰も疑問に思っていなかった訳では無いが。疑問を持たせないように偽の情報を知らされていた。 


保育士たちの子どもを守ろうとする奮闘の末に、軽傷で済み、死者は出ていない。

 

 シェルターの中であの時の恐怖がフラッシュバックして、泣き叫ぶ子どもたちの心の傷までは治してあげられない。私はただ「怖かったね」と抱きしめることしか出来なかった。


これから先もあの光景を忘れるなんてことはここにいる人たちは誰一人だって出来ないだろう。心に傷を負ったままこの後も生きていくしかないのだ。何も力を持たない私たちには今はただこうするしかできなかった。


 そうしているうちに夜がやってきて、私はいつも通り、見回りをしながら、子どもたちを寝かしつけていた。カザリさんは眠れない子どもたちと一緒に絵本を読んで過ごしていた。


「先生は何で保育士になろうと思ったの?」

 

セレナが私に質問をする。

 

「うーん、私が好きなことと得意なことをみんなに伝えたいと思ったから、かな」


「好きなこと……?好きなことを仕事に選んでも良いんだ」


「きっかけの一つとしてはアリかもね」


「私ね、ピアノを習い始めたんだ。やっぱり、先生みたいな保育士さんになりたいと思って」


「そっか、楽しみにしてるね」


 元々は母と同じ看護師をしたかったけれど、死期が近い人を見ると”ある症状”が出てしまって……命と向き合うのが怖くなった。


 ──逃げ出したかったのだ、母からも死からも。


 寝かしつけが終わって部屋から出てくるとカザリさんが目をキラキラとさせていた。

 

「へぇ……ああやって寝かしつけってしてるんだ。好きなことを活かせるってすごくいいね。俺はこの建物とかずっと見てたいし設計図描きたいタイプだよ」


 茶化すような人かと思っていたけど、意外と人のことを否定しないんだなカザリさんって……。


「建築、お好きなんですね。実はここに就職する前日まで黄の国の建築学科に通っていて。オススメの建築図録今度お渡ししますよ、既にアーカイブとして入ってるかもしれないですけど……」


「え、建築好きなんだ!それに四季先生のオススメの図録か、すっごい見たいな〜」


「では今度持ってきますね。返却期限はないのでまたいつでも」


「俺の持ってるのと交換する?神様のお話絵本とか教材として使う?」


「あ、ちょっと気になる……お借りしても?」


「おっけ、交渉成立ってことで!」


「ああ、でもここから出られたらの約束ですよ」


「ん?割と簡単に出れるよ。ほら、こっちから駅に繋がってる」


 えぇー……シェルターと言いながら抜け道があるのならそこからテロリスト達が入ってきたりすることが出来たんじゃ……。


子どもたちを先に避難させたのは割と危険だったのでは?


「抜け道の入口は透明結界で見えなくなっているから大丈夫でしょ。それに、もう扉で塞いで手前までしか入れないし、見えないようにしておいた。有事の時には俺が何とかできるよ」


 あまりにも、適応力が高すぎる。


「まあ、今後の対策として物理で入って来れなくしないと。あ、噂をすれば入口の近くに残党が寄ってきてるね。寝首を掻くったって、もう良い子は寝てるんだよなあ!」


「そんな……!一体どこに、いまさっき入眠した子達の眠りを妨げるなんて絶対に許せません」


 環境が変わったこともあり、配慮が必要な子もいるのに睡眠の妨げをする者を許すわけが無い。


 瞬時に武装に身を包んだカザリさん、今の四季にはまだ敵影は見えていない。

 

「その察知能力……カザリさんって本当に何者なんですか?」


「人間じゃないって言ったでしょ、俺は演算型戦闘(えんざんがたせんとう)ヒューマノイドだよ。まあ見てて〜」


『対象をスキャン、演算結果反映。実行しますか?』

「ああ、護衛対象(みんな)を巻き込むなよ。実行!」


 眩い光と共に、テロリストの残党は撃退された。自分の知り得ないヒューマノイドという存在が目の前で戦う姿を初めて目にした。

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