カザリシオンは気づかれたい
「子どもたちを優先して、早く!」
誰かが言った一言で私は意識を取り戻す。鉛のように重い身体を何とか動かし、子どもたちが先に逃げ延びたシェルターの入口へ飛び込んだ。かなりの高さがあることから、もう一度上に上がるのはかなり難しそうだ。
シェルターは地下とは思えないほどに明るく、奥にある広場で、子どもたち同士が身を寄せあっていた。その奥には個室もキッチンも風呂もあることから、地上の住宅棟と同じ設備が行き届いていることがわかる。
「驚いた……この教会こんなにも広かったのね」
「四季先生、こっちだよ!」
「ああ、シュシャ!ヴィクにセレナ、無事だったのね。怪我の手当もしてある……分かること教えてくれる?」
「うん、私はヘーキだよ。最初は何人か怪我したりしている子が居たんだけどね……今はみんな部屋にいて落ち着いているよ。あの人に助けてもらったんだ。直接会った方が早いかな」
「あの人って……?まさか不審者──」
奥の部屋から奇妙な格好の影がゆらりと揺れた。あれは……人?周りに倒れている大人、子どもの生死関係なく片手で拾っては片っ端から回復魔法をかけていく。本能的にこいつはヤバいやつだとつい構える。
「あー!そこのせーんせっ!せんせー!あのさあ」
近くに壁があるのでもしかしたらさすまたで追いやることが出来るかも。そう思った時には体が動いていた。
「えっと〜さすまたで挟まれちゃ物理で動けんのよな、ほんとマジで痛……いだだだ!?」
「先にご要件とお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「ちょ、固定電話のメッセージみたいじゃん!てか、誤解なんだって!シェルターの入口から落ちてきた怪我人や死者を手当てしてたんだ!」
「俺は、飾 詩音って言います。気さくに、シオンって呼んでよ、先生?」
「そ、そうだったのですね。シュシャ達を見ればあなたが本当のことを言っていることがわかります、すいませんでした。えっと……カザリさんですか、珍しいお名前ですね」
「シオンでいいよー?てか先生も初見殺しの名前してんじゃん?」
「え、私まだ名乗ってないですけど。何で知ってるんですか?」
「名札ついてるし、あと俺ここにずっと住んでるから当然じゃない?きゅうしょ、しきせんせ。この施設の人のことはみんな知ってるよ?」
「え?二年勤めてて一回もお会いしたことがないんですけど、本当ですか?」
「まあ、特定の条件でしか見えてなかったし、椅子の中に入ってくる人って普通は居ないから仕方ないよね」
「特定の条件?」
「ここの建物の壁だよ。ほらこうすると……」
壁から半透明に光る薄い膜のようなものがするりと剥がれ、それをベールのように纏ったカザリさんが見えなくなった。新婦がつけるベールのように神秘的だ。
神がかってる……こういう時に使う言葉だったんだ
「フフっ、俺って顔がとってもいいでしょ?」
「何ですか急に動物園の動物みたいな露骨なアピールは……」
あまりにも残念すぎる。
「そこはイケメンって言ってよ〜!!!!!」
「いやぁ、今後絶対言わないです」
「も〜!四季せんせーのいじわる!ま、これが透過結界ね」
何とも扱いがよく分からない人だ。
「カザリさん?」
「せーんせ!見てよ、どう!?」
「うわぁあああ!?急に生首にならないでください!」
「ね、簡単でしょ?地上の教会にも同じのがあるよ」
「だから壁を触ってる子が居たのかな。……はあ、見えないモノが居るならたまに水が流れる音とかドアが勝手に閉まったり、あと日曜日にピアノの練習してたら歌声が聞こえてくるのとかも──」
「え、歌声のは知らないかな。歌を好きなあの子はもうとっくに──」
「ヒッ!?」
カザリさん以外にも教会に誰かいるのかを探るための話題が怪異を確信させるものになって返ってきた。……これ以上はいけない。




