雨の音がする
「……ただいま」
「週末から長期の連休となりますが、不要不急の外出は控えるようにしましょう」
「本日の感染者、重症者、死者数が発表されました」
連日の報道、増え続ける感染者、死者。ドアの向こうから雨の音が響く。雨は嫌いだ。嫌なことを忘れさせてくれない。
──とても不快だ。
その日は体が鉛のように重く、食事を取る気分にもなれなかった。連日の上司からの叱責、自分の不甲斐なさに嫌になる。何で自分だけこんなにも辛いんだろう。暗がりの部屋の奥からパタパタとかけて来る音。
「あ、四季おかえ……!?」
「本日の感染者、重症者、死者数が発表されました」
テレビキャスターの重苦しい声とアイルの心配する声が響く部屋、その言葉が頭の中で反響して──五月蝿くて仕方が無い。
口先に触れた柔らかな感触と温かさ。それだけが私がまだここで生きていけることを実感させる。
「っハッ……はあ、四季」
「ああ、ごめん……暫くこのままでいさせて」
いつからだろう。こんなにも歪んだ感情を押し付けるようになったのは。彼女に両の手を揃えて絞めるように少し力を入れる。
「うぁ……分かった四季のこと大事だから。四季だったら私、何されても嬉しいか……げほっ……かハッ!?」
「嘘つき……誰にでも言ってるんでしょそういうこと」
私は、アイルが本当に好きだ。とても従順で私の言うことを何でも聞いてくれて、彼女の虚ろで視点の定まらない目を見ると酷く安心した。
「私だけのために、この場所にずっといてね」
そう言った時には床に虚ろな目をしたアイルが横たわっていて……泡沫のように彼女は消えてしまった。
幻覚と幻聴。そろそろ薬が切れてきたのかな。
──ああ、そうだ。私があの時に××てしまったのだった。ちょうどこんな雨が降っていた。この一室が酷く冷たく、一人で住むには広すぎることを思い知らされるのだった。




