出立式
──これは白の国に伝えられているおとぎ話。
遠い昔、この大地は光が一切届かず辺り一面が暗闇に包まれていました。
白の国の人々は「夜の星の子」と呼ばれ、生まれてから死ぬまで太陽の光を浴びることがないため、すぐに衰弱していくのです。
生き延びたとしても大人になる前に死んでしまうことがほとんどでした。
神は空からこの場所を見たとき、
「夜の星の子らよ、汝らの罪を許そう」
神が慈悲をもって自らの手を頭上にかざすと、地上に光がもたらされたのです。それがこの白の国の始まりでした。
──しかし人は過ちを犯した。全ては腐り落ち、跡形もなく無差別に命を奪った。一人の人間が使用した禁忌の魔法。
それでも諦めない災厄から逃れた生き残り達は人工の光を作り出したのです。
──夜の星の子より
出立式日和の青空が広がる朝、この時期の早朝は冬の冷たさが少し残っていて。息を大きく吸い込みたくなるようなとても澄んだ空気をしている。
「……まだ一緒に居たかったな」
あっという間に日々は過ぎていった。泣いて、笑って時には叱ることもあった。
合う、合わないはあるにしても、みんな一人ひとりが大切な存在だ。保育士として子どもたちと過ごす日々が私の全てであり、楽しいこともあればどう接してあげれば良かったのかと悩むことも多く、眠れない事も多々あった。
関わりと援助に正解の無い仕事、それが保育だと思う。
大人になると、あの頃夢中になっていた想像の世界は崩れ去っていく。それが見えている彼らを全て理解することは難しい。
要求の全ては叶えられない。私たちは子どもたちの親ではなく、友達でもない先生という関係だからこそのもどかしさはずっと続いていくのだ。
証書の授与が終わり、いよいよ感謝の言葉が始まる。だが、それは突然に──終わりを迎えた。
銃撃音が教会に響き渡り、天井から武装をした人々が侵入してきたのだ。
「全員、命乞いをしろ。選別を行う!」
……まずい、不審者だ。子どもたちを護らないと!
私はひとまず子どもたちを周りに集め、落ち着かせることに集中する。隙を見て椅子の座面のシェルターから子どもたちを逃がさないと。
「みんな伏せて!」
叫ぶ同僚の頭が次の瞬間飛ぶのを見た。ああ、理不尽な死とはこういうことか。自分にとってショックな過去がフラッシュバックしたが今は子どもたちの為に私を犠牲にすべき時だ。
「い、嫌ああああああああぁぁぁ!?」
発狂する子を何とか落ち着かせるために近くへ来るように促す。その際に銃撃を受け腕を負傷するが、そんなことどうだっていい。一人でも多くの子を助けたい。
「シュシャ、今は耳と目を閉じて。そう、ゆっくりと深く息を吸うの」
「っ、どういうこと?……何で!」
「あなた達はどうか生き延びて、今はここから逃げなさい」
「ちょっと!?待っ……!」
シェルターの先からは子どもたちの判断に任せるしかない。この状況では理由など分からなくても命乞いをするか逃げるしかない。武力など適う相手では無い。本能的にそう告げていた。
今更、命など惜しくなかったから体がすぐに動いた。相手を刺激しては逆効果だ。こちらが不利な状態の中、一人の保育士が相手に声を掛けたのだった。
「どうかされましたか、ご要件をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ああ?贄の犠牲者を選別しに来たんだよ。捧げるだ何だと死を正当化して育ててきたお前らから子どもたちを救いに来た、それだけだ」
捧げる……死を正当化?子どもたちは次の施設に移るだけであって──一体何のことを話しているのか。私たちの知りえない事情があるのだろう。
「ここは何のために機能している施設なのか、結果から言うなら──神への供物を育てている。そうかもしれませんね、子どもたちが居てこの白の国は陽の光を浴びながら繁栄し今日まで続いているのです。あなた方もそのおこぼれにあやかっている人間の一人なのですが」
「白の国……ハッ、何を言っているんだお前は」
「……上空を見ていただければ、お分かりいただけます。ちょうど天気も良くてその御姿が良く見えますよ。貴方に神の恩恵がありますことを──」
「あ?……ッアッ!?」
刹那、振りかざされた大きな手でテロリスト達は一掃された。
銃撃によって崩れた教会の天井から見えたのは大きな白い少女のオブジェ。悲しげな表情を纏って見下ろしている。初めて見たはずのそれを私はよく識っていた。見違うはずもないそれは──
「何で……?」
私のかつての親友にとても良く似ていた。




